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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

 結局、全身に化粧水を塗りたくられたヴィヴィは、恨めしそうに兄を見上げた。

「お兄ちゃんは、嘘吐き――なんだもんっ」

「俺が?」

 心外とばかりに聞き返してくる匠海に、ヴィヴィはぷいと顔を背けて零す。

「………………んない、もん」

「え?」

 妹の呟きが聞こえなかったのか。

 そう短く聞き直した兄に、ヴィヴィは声を押し殺しながらも叫んだ。

「全然、ぜんぜん、おっきくならないんだもん!」

「は? 何が?」

 こんなに言っても解らないのか、首を捻る匠海。

「……~~っ!? む、お胸っ 「毎日揉んで大きくしてあげる」って言ったのにぃ~~っ」

 半泣きで兄を睨み上げるヴィヴィに対し、匠海はその可愛らしい顔から視線を移し、

「あ~~……」

 そう、しみじみ唸った。

「……っ!? 今、「確かに」って思った!」

(ひ、酷いっ)

「…………ごめん」

 そう素直に謝罪してきた兄に、ヴィヴィは「あ、謝らないでぇ~~っ」と悲壮感を漂わせたのだった。



 ――検証結果――

 2年近く、毎日大好きな男に胸を揉まれても、駄目なものは駄目です。

  by 篠宮 ヴィクトリア



 兄と就寝挨拶を交わし、とっとと寝ようと目蓋を閉じたヴィヴィだった。

 が、その2時間後――尿意をもよおして目が覚めてしまった。

「………………」

(…………ローズヒップ……か……)

 明日からの強行スケジュールに備え、就寝前に “ビタミンCの爆弾” と呼ばれるそれを飲んだのだが。

 利尿作用のあるハーブの効能を侮っていた。

 しぶしぶベッドから降りたヴィヴィは、寝室を出てバスルームへと向かう。

 当初の目的を達し、海水魚の寝る姿でも堪能するかと、暗闇の落ちたリビングへ出ようとし。

 ルームシューズに包まれた爪先が、ぴたりと止まる。

 微かに聞こえた物音に、ヴィヴィはふっと視線をやる。

 そちらは左隣の匠海の部屋。

「………………?」

 首を捻りながら白石のマントルピースを見やるが、当たり前だが暗くて、その上に置かれた時計は見えない。

 だいたい3時前くらいだろうか。

 そう見当を付けながら、踝から下しか見えていない脚をそちらへ向ける。

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