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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
両腕を持ち上げたヴィヴィは、眠りこける兄の頬を愛おしそうに撫でさする。
(いつも1人で……、何でも1人で、解決しようと、しちゃうから……)
ヴィヴィが頼りにならないから、だろうけれど。
もしも、2人の事で悩んでいるのなら、
ううん、そうじゃなくても、
自分にも話して欲しい。
恋人なのだから。
将来を誓い合った仲なのだから。
苦しみも悩みも全て分かち合いたい。
そう思うけれど、何となく、兄にそれを求めるのは無理な気もした。
美徳でもあり、そして短所にもなる、匠海のその性格。
そして、そんな兄をヴィヴィは愛しているから――。
「…………傍に、いるね」
ソファーの上に膝立ちになったヴィヴィは、兄の顔に幾つもの口付けを落とし。
その首に両腕を巻き付けて、自分の薄い胸の中に匠海の頭をかき抱く。
「大好き……。お兄ちゃん……」
物心付いた頃から、ずっと好きで憧れていた匠海。
その兄を悩ませているのは、確実に自分――なのだろうが。
だからと言って、匠海を解放してあげられるほど、
ヴィヴィは大人ではないし、
善人ではないのだ。
8月2日(火)。
5時に目が覚めたヴィヴィは、まだ匠海のリビングにいた。
ソファーの上、いつの間にか丸っこく畳んでいた身体。
そして兄もまた、ソファーの上で昨夜と同じ体勢で眠りこけていた。
「……おにいちゃん……、起きて?」
何度か呼び掛けて肩を揺すれば、重かった目蓋はやっと開かれた。
「………………? ヴィクト、リア……?」
点けたままの照明が眩しいのだろう。
億劫そうに瞬きをする匠海の腕を、ヴィヴィはぐいっと引っ張り上げる。
「もうっ こんなとこで寝ちゃダメでしょう? まだ5時だから、ほら、ベッドで寝て!」
起き抜けにそう捲くし立てる妹に、ようやく目が覚めたらしい匠海は不思議そうに呟く。
「……お前、こんなところで、何を……?」
視線で目の前の酒瓶と妹を見比べる兄に、ヴィヴィはにっこりと笑う。
「ん? ああ、「行ってきます」って言いに来ただけ」