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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
抱擁を解かれ、後ろ向きに滑るクリスに手を引かれ、
ぐっとそちらへ引っ張られたヴィヴィは、胸に抱き寄せられる。
クリスの開脚した間にするりと両脚を滑り入れたヴィヴィは、大きく開いた両腕を支えられ、また引き戻される。
互いを見詰め合い、支え合いながら、同じステップを踏み。
息の合ったツイズル。
お姫様抱っこをされてにっこり微笑むヴィヴィに、
白い仮面を付けたクリスは、あくまでも優しくリードしてくれる。
しかし、華やかだった舞踏会も終わりを迎え――。
煌びやかだった照明も落とされていく。
途切れそうな、オルゴールの奏でる『Masquerade』。
ダンスに息の上がった2人は、互いに見つめ合う。
『Who was that shape in the shadows?
――影に浮かび上がる 貴方は誰?』
クリスティーヌの問い掛けに、横を向いて答えようとしないファントム。
『Whose is the face in the mask?
――仮面に隠れた その顔は誰?』
そう歌いながら、クリスの仮面に手をかけるヴィヴィ。
白く小さな仮面を剥ぎ取られたクリスは、いきなり人が替わった様に粗野になり、
ヴィヴィの手から仮面を奪い返し、その華奢な躰を氷の上に突き飛ばす。
そして、パイプオルガンの奏でる、『オペラ座の怪人』のあまりにも有名な音色。
♪ジャ―――ン、ジャジャジャジャジャ――ン♪
右目を手で覆い隠すクリスと、あまりの驚きに両手で口を覆うヴィヴィ。
暗転するリンク。
再度スポットライトが当てられたそこには、
黒いジャケットを脱ぎ捨て、白い仮面を付け直したクリスしかいない。
ファントムの歌う声に合わせ、柔らかな白ブラウス姿のクリスが、しっとりと滑り上げていく。
『お前はやって来た
深い深い衝動に 駆り立てられて
今まで沈黙を守ってきた 望みを追い求めて
沈黙を貫いてきた その望みを』
そしてぼんやりと浮かび上がる、リンク上に座り込む困り果てたヴィヴィ。
ゆっくりと滑り寄るクリスに手を引かれ、起き上がる。