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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章          

『Past the point of no return
 ――もはや退けない

 振り返るな 戯れはここまでだ

 「もしや?」や「いつ?」

 そう考える時は過ぎた

 抵抗しても意味はない

 夢に身を任せ 悩みを捨てろ』

 ヴィヴィの首元に、後ろからぐっと大きな掌が被せられる。

 左肩、左腕を伝い、その先の甲に落とされる口付け。

 伏せられた目蓋がゆっくりと開かれ、じっとこちらを見つめてくるクリスの灰色の瞳。

(クリ、ス……?)

 ヴィヴィは演技中ということも一瞬忘れ、何故かぞくりとした。

『どんな燃えさかる炎が 魂を覆うのか?

 どんな濃厚な欲望が 扉の鍵を開けるのか?

 どんな甘い誘惑が 我々の前に横たわるのか?』

『Past the point of no return
 ――これが最後の一線

 言葉に出来ない秘密 

 どんな熱い秘密を

 我々は学ぶのだろうか?

 もはや戻れない』

 手を引かれて滑り出せば、

 クリスは執拗にヴィヴィを捕らえ、振り回し、ひと時も自分から離さない。

『Past the point of no return
 ――もう引き返すことは出来ない

 もう後戻りは出来ない

 2人きりの物語が始まる

 善悪の判断はもうつかない

 残る疑問はただ ひとつ

 2人がひとつになるまでに 

 どのくらい 待てばいいの――?』

『いつになったら 

 血が全身を駆け巡り

 眠っていた蕾が 一気に花開くの?

 炎がとうとう 私達を焼き尽くす』
 
 クリスティーヌの澄んだ歌声。
 
 がっちり互いの手首を握り合い、

 支えるクリスを支点に、ヴィヴィの身体が氷とほぼ水平に倒れ、ブレードが円を描き出す。

 美しく重なる、ファントムとクリスティーヌの歌声。

『『もう引き返すことは出来ない 

  これが最後の一線

  もう橋は渡ってしまった

  後は橋が燃え落ちるのを見ているだけ

  もはや もう戻れない
  ――The point of no return』』

 やがて、ファントム独りを置いて、

 恋人と手に手を取り、去ってしまうクリスティーヌ。

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