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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
ヴィヴィは、現在の女子選手の中で唯一、3回転アクセルを飛べる。
それも、かなりの高確率と安定性を持って。
だが自分は違う。
クリスは、確かに4回転の安定性が武器だが、男子選手は他にも4回転を飛ぶ選手はザラにいる。
その分、クリスよりもヴィヴィのほうが、周りから「五輪金メダルは当たり前」という、プレッシャーが掛けられるのだ。
守りたいと思う。
妹の肩に背負う必要のないものを、不必要に載せてやらないように。
それでなくても、自分の妹は――、
パシャリ。
思考を遮る軽いシャッター音と、眩しい光。
「……え……?」
驚いて音のした方を見れば、静流ときゃっきゃしていた筈のヴィヴィが、こちらにiPadを向けて写真を撮っていた。
「へへ、隙あり~~! HPに載せるのだ~っ」
その能天気過ぎる様子に、クリスは呆気に取られた。
自分がこんなにも心配しているのに。
責任感が強くて、周りが自分に期待する事を、異常なほど敏感に嗅ぎ取り、そうあろうとしてしまう癖に。
その癖、自分から「団体戦は銀を獲りたい!」と、要らぬ枷を掛けてしまう。
「くひひ」と変な笑い声を上げながら、iPadに何やら打ち込んでいるヴィヴィ。
「………………、好きだよ、ヴィヴィ……」
長い髪をかけた耳にそう吹き込めば、大きな瞳がぱちくりと見開かれ、
ちらりとこちらに寄越された双眸には、驚きの色はあるものの、すぐにふわりと緩む。
「ヴィヴィも。クリスのこと、だ~~い好きっ♡」
そんな可愛らしい返事を寄越す妹を、クリスはしかとその胸に抱き締めたのだった。
「ああ、死ぬほど、可愛い……」
「……っ クリス、ぐ、ぐるじい……(-_-;)」
選手だけでも総勢18名の大所帯。
1週間丸々使った、特別強化選手の合宿は、やはり最初はぴりぴりとした空気が漂っていた。
特に、女子シングル5名と、男子シングルの5名の間に。
まあそれも致し方無いこと。
五輪の3枠を、少なくともその5名で獲り合う訳だから、皆が皆ライバルなのだ。