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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第110章
しかし、初日こそ変な空気だったそれは、2日目にもなると良い緊張感がありながらも、和やかな物となっていた。
女子はエースのヴィヴィがへらへらし、宮平 知子や下城 舞、マリア 渋谷と馬鹿話ばかりしていたし。
男子はマイペース過ぎるクリスに、同い年の西森 真瑚と鈴木 賢太郎が、ちょっかいを掛けて弄って楽しんでいたし。
ちょっとだらけ気味になると、そこはリーダー格の羽生(はぶ) 結弦が、きっちり引き締めてくれる。
7日間の間に一度だけ、本番のミュンヘンのリンク(2018年のグランプリ・ファイナルで、経験済み)も見学させて貰えたし。
―7時間の時差も、身を以て体感出来たし。
終わってみれば、日本チームの団結力も深まり、良い合宿となった。
8月29日(月)。
帰国した双子は、羽田空港で待ち受けていたマスコミに囲まれた。
「ミュンヘンの本番リンクでは、練習の機会がありましたか?」
「時差の影響はどれくらいありそうですか?」
「今シーズンのジャンプ構成等、具体的な目標をお願いします」
質問攻めにされた双子は、それら一つひとつに丁寧に答えた。
その中でも、
「こんなに大所帯での海外の合宿は初めてでしたね? 何か楽しい思い出は出来ましたか?」
という質問に、クリスは肩を竦め、隣にぴしりと立っているヴィヴィを見下ろす。
「…………?」
不思議そうに見上げてくる妹の頭を、何故かぽんぽんと撫でるクリス。
「僕の思い出は、ヴィヴィがずっと先輩風を吹かせて、静流(しずる)の面倒見てたことかな……」
今回 初参加で、かつ一番最年少の17歳――アイスダンスの女子・安方 静流を、ヴィヴィはまるで妹でも出来たかのように構っていた。
正確に言うと、相手して貰っていた。
精神年齢と見た目年齢は、下手をすれば安方のほうが上に見えるくらい、彼女はしっかりした子だったから。
「んな……っ!? せ、先輩風なんて、吹かせてないもんっ」
「心外だ!」と激しく抗議してくるヴィヴィは、報道陣に笑われるだけで、
何故か誰もフォローをしないのだった。
そんなこんなで、ばたばたしながら、双子の夏休み前半は過ぎて行ったのだった。