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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

 しばらくその様子を注視していたヴィヴィは、そっと匠海の耳元に唇を寄せた。

「大丈夫、だよ……。ヴィヴィ、傍にいるよ……」

「………………」

 そう囁けば心なしか、兄の様子が少し落ち着いたように見えて。

 ヴィヴィはもう一度、静かに諭す。

「お兄ちゃんは、悪い夢を見てるの……。夢だから、大丈夫……、ヴィヴィ、ここに居るからね?」

 薄らと開かれる長い睫毛を湛えた目蓋。

 けれどそれは、何も映す事無く、またすぐに閉ざされてしまう。

 それでいい。

 眠ったままで。

 次は、幸福な夢を見てさえくれれば。

「愛してる……。何の役にも立てないけれど、お兄ちゃんを愛する事は、ヴィヴィ、得意だもの……」

 細く頼りない掌で、兄が安心出来る様に、気持ち良い様に、柔らかくその黒髪を梳いて撫ぜる。

「だから、どうか……ひとりで苦しまないで……」

 耳朶に吹き込まれるのは、心からの願い。

 2人で生きて行きたいから。

 足並みを揃えて……多分、兄のほうが2歩も3歩も先を行くだろうが、必死で追い駆けるから。

 しばらく匠海の黒髪を撫でていると、兄の吐息は静かになり、その表情も穏やかになった。

 ほっとしたヴィヴィは、なだらかな頬のラインを指先で撫で擦る。 

「………………」

 大きな瞳に映りこんでいた匠海の顔が、ゆっくりとその目蓋の中に消えていく。

(ヴィヴィのせい、かな……。ヴィヴィの不安が、お兄ちゃんに、伝わっちゃってるのかな……)

 こんなに毎日顔を合わせ、傍に居るのだ。

 自分の弱い心が、

 兄に伝染し、

 それで、

 匠海、は――。
 





 いつの間にか、眠りに落ちていたらしい。

 念の為にいつも匠海の寝室へ持ち込んでいるスマホが、サイドテーブルの上で振動していた。

 薄い胸の中に抱え込んでいた兄の頭から腕を解き、ヴィヴィはスマホを取り上げて、アラームを切る。

 いつもなら、自力で起きられるのだが。

 5時に朝比奈がヴィヴィの寝室をノックするから、それまでには自分のベッドに戻り。

 そして眠った痕跡を残すため、一度ベッドの中に入り、整えられたベッドを乱していた。

 振り返って兄を見下ろすと、その表情はいつも通り、端正だけれど幼さも感じさせる安らかな寝顔だった。


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