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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
9月11日(日)。
夜遅く屋敷に帰宅したヴィヴィは、弾む足取りで匠海の私室へと向かった。
コンコンと軽くノックした直後、返事も待たずにリビングに続く扉を開け放つ。
最初に目に入ったのは、黒のお仕着せを纏った執事の五十嵐。
いつも落ち着き払った彼の瞳が、驚きに少し大きくなり。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
微笑みと共に寄越された挨拶に、ヴィヴィはにっこり笑って「ただいま」と返す。
「お兄ちゃんは?」
そのシンプルな問い掛けに微笑した五十嵐は、白手袋に包まれた掌を書斎の方へと向けた。
こくりと頷いたヴィヴィは、てててと小走りで駆けて行く。
開け放たれたままの書斎に飛び込んだヴィヴィは、ノートPCを見つめていた匠海に向かって薄い唇を開いた。
「聞いて聞いて! 今日ね、高木さんに会ったの!」
「おかえり、びっくりした……。で? 高木……って、誰だい?」
目蓋をぱちぱちと瞬いた兄に「可愛い♡」と心中で萌えたヴィヴィだったが、すぐに元の話題へと戻る。
「あ~っ え……っと、ヴィヴィSPの、ピアノ演奏してる……」
「ああ、高木 正勝さん?」
兄の上げたその人物の名前に、ヴィヴィは大きく首肯する。
「うん、そう! NHK杯の番宣企画で、会わせて貰ったのっ」
2021-2022シーズンのSP『girls』。
ピアノ独奏であるその曲の作曲家 兼 演奏家――高木 正勝。
ヴィヴィが彼の曲に出会うきっかけとなったのは、楽器の講師である白砂 今(こん)だった。
『ヴィヴィにぴったりの曲だと、常々 思ってたんだよ。可愛らしくてキラキラしていて、それでいて清楚な美しさがある、この曲が――』
そう勧められて視聴した途端、ヴィヴィはすっかり『girls』の虜になってしまった。
映像作家でもあり、音楽家でもある高木。
42歳のその人は、世界を旅しながら撮影した動く絵画のような映像、長く親しんでいるピアノを用いた音楽、両方を手掛ける作家。
海外へも及ぶその活動は、オリジナル作品だけではなく、各ジャンルのアーティスト、映画音楽、CM音楽など、コラボレーションも積極的に行っている。
※高木 正勝 『girls』――住友生命の浅田 真央さん出演CM「私を強くするもの」で流れていたピアノ曲です。