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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
「へえ、それは良かったね。どんな人だった?」
兄に促されてリビングへ移動したヴィヴィは、ソファーに腰掛けながらも首を捻る
「ん~~……、あ、なんか、眠そうな人だった!」
妹の口にしたあまりにもな人物像に、傍に腰かけた匠海が「え?」と聞き直してくる。
「違うな~。ん~~と、何となく、本能で生きてる感じの人だった~」
半袖ワンピの胸の前で両腕を組んだヴィヴィの言葉に、匠海は広い肩をワザとらしく持ち上げる。
「全然解りません」
五十嵐が淹れてくれた緑茶の湯飲みを手に包みながら、ヴィヴィは少しだけ唇を尖らせた。
「え~~……。じゃあ、今度NHKで放送するから、観て?」
それが一番手っ取り早い。
「はいはい」
苦笑する兄に構わず、ヴィヴィは小さな顔いっぱいに、にんまりと満足そうな笑みを浮かべる。
「即興演奏、いっぱい聴かせて貰ったの! もう感動~っ!!」
『girls』も即興演奏で、今までに何通りもの旋律が生まれてきたもの。
ヴィヴィが音源にしたのは、CDとしてリリースされた中の1曲だ。
「そうか、それは良い経験になっただろうし、きっとスケートにも生きてくるな?」
まるで自分の事のように喜んでくれる匠海が、ヴィヴィは嬉しくて。
「ん。ヴィヴィもそう思う。うふふ」
ふ~ふ~しながら緑茶を飲むヴィヴィに、何故か兄がくすりと笑い声をあげる。
「ん?」
「ああ、いや……。お前達が振付を始めた時の事を、思い出してね」
目の前のローテーブルに湯飲みを置き、匠海は長過ぎる脚を組みながら、また思い出し笑いを零す。
「あの時は、どんなプログラムが出来るんだろうかと、ちょっと心配になったよ」
「あ~~……」
匠海の言う “あの時” とは、5月前半に振付師の宮田賢二が、篠宮邸に平日泊まり込んで振付けてくれた日々の事だ。