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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

 まだ蒸し暑さ全開の、9月17日(土)。

 ヴィヴィは葉山にいた。

 もちろん、匠海と一緒に。

 今シーズン初戦の3週間前とあって、昼過ぎまでみっちりレッスンを受けたヴィヴィ。

 別荘に辿り着いた頃には、もう夕暮れが迫っていた。
 
 ヴィヴィが庭に青々と茂っているハーブを摘み取り、鼻歌交じりにフレッシュハーブティーを作る傍ら、
 
 匠海は「ディナーの仕込み」と、「どこのシェフだ?」と突っ込みたくなるほど、てきぱきと広いキッチンで動いていた。

 17:45。

 日の入り時刻。

 広大なウッドデッキに据え置かれた、L字型の黒い籐編みのソファー。

 兄の股の間――という定位置に収まったヴィヴィは、ほくほく顔だった。

 眼下に広がる、水平線。

 そして辺りを朱に染めながら落ちていく夕日。

 爽やかなハーブティーの香りに包まれながら、あんまり爽やかじゃない様子の兄に、身も心も抱っこされている。

「ふふ、幸せ……」

 うっとりと囁きながら、匠海の首元に顔を埋める。

 自分のより高めの体温が頬に触れ、しっとりした肌が気持ち良くて、細く高い鼻をすりすりと首筋に擦り付ける。

 ふわりと香る、兄だけの香り。

 それを胸いっぱいに吸い込んで、ヴィヴィは自分の全てを兄に預けた。

「良かった……。ヴィクトリア、もうすぐ多忙になるだろうから、今の内に骨休めしてなさい」

 優しい兄の心遣いと、櫛づけてくれる長い指先。

 匠海の与えてくれる全てにうっとりしながら、ヴィヴィは目蓋を閉じた。






 ――で、日の入りの瞬間を、眠って見逃してしまった。

 いつの間にやら うとうとしていて、目蓋を開けたら辺りが真っ暗闇で。

 大好きな匠海と、素敵な瞬間を共有する筈――だったのに。

「ご、ごめんね……、退屈だったね?」

 申し訳無さそうに謝るヴィヴィの頬を、匠海の大きな掌が柔らかく包んでくれる。

「全然。夕日に染まるヴィクトリア、たっぷり見られたからね」

 リビングからの明かりに照らされた兄の顔が、うっとりとしていて。

 その様子に自分の寝顔がずっと、この素敵な兄に見つめられていた事を察し、ヴィヴィの頬がほわんと熱くなる。

「え……、や、やん……っ」

(ヴィ、ヴィヴィ……、よだれとか垂らしてなかったかな……)


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