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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
翌朝5時。
いつも通りの時間に目が覚めてしまったヴィヴィは、自分を緩く抱き寄せて眠っている兄の腕から抜け出し。
足音を殺し、階下へと降りて行った。
ちょうど日の出の時間と被ったらしく、2階まで吹き抜けで一面ガラス張りのリビングからは、紫色に染まった朝焼けの海が一望出来た。
密閉性の高い硝子サッシを解放すれば、幾重にも重なりあう潮騒が鼓膜を震わす。
空調の整った室内には、むっとする熱気と潮の匂いが雪崩れ込んで来た。
何かに吸い寄せられる様に、ヴィヴィは裸足のままウッドデッキの上に歩み出る。
その隅の柵に凭れると、より一層、水平線が望めた。
「綺麗……」
最初は紫色が強かったのに、徐々に藤色へと変化し、
やがて日が昇ると空色が濃くなった。
いつも松濤の屋敷で目覚め、渋谷の街並みを潜り抜けて、車でリンクへと向かう日々。
少し離れたここ葉山では、毎日がこうなのだと思うと、何だか不思議な感じがした。
「おはよう……」
穏やかな挨拶と、後ろから肩を抱き寄せられる感触。
「……っ び、びっくりした……っ」
兄が起きてきたのに全く気付かなかったヴィヴィは、その広い胸の中で華奢な両肩を弾ませながら背後を振り返る。
「起きたらヴィクトリアがいないから、驚いたぞ?」
少し咎めるようなその物言いに、ヴィヴィは「あ……」と、階下に降りてきた当初の目的を思い出す。
「えっと……、あの、朝食、作ろうと思って……、思ったの……だけ、ど……」
いつも兄にばかり調理を任せてしまい、女としてそれはどうなのだろうと、常々思っていたヴィヴィ。
簡単な朝食くらいならば、自分で作れるのではないかと思ったのだ。
パンを焼いて、コーヒーメーカーをセットして、サラダの具材を洗って、ウィンナーを焼いて……。
なのに、何故か今、ただただ大海原を目の前に立ち尽くしていた。
「ふうん。お腹空いてるのか?」
「え? まだ、そんなには……」
匠海の問い掛けに、ヴィヴィはゆるゆると首を振る。
いつもはリンクで1時間半ほど滑ってから朝食を採るので、まだ空腹は感じていなかった。