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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
けれど、下から自分を見上げてくる匠海の表情は、少し苦しそうなもので。
「俺……、お前に全然 “普通の19歳の女子が好むデート” させてやれていない……」
「………………」
まさか、兄がそんな事を心苦しく思っていただなんて。
ヴィヴィは今で、充分幸せなのに。
いや、充分というか、もうこれ以上無いほど、毎日が嬉しさで満ち溢れているというのに。
多少の行き違いがあれど、それもきっと自分達の将来を見越しての事。
それに、
「 “普通の19歳の女子が好むデート” って……どんなこと……?」
ぽそっと呟いたヴィヴィの表情は、不思議そうなものだった。
「え……。例えば、映画行ったり、ショッピングしたり……。遊園地に行ったり? 街をぶらぶら散策したり……?」
兄も少し自信なさそうに列挙する。
「へえ? そうなんだ」
「……そうなんだって、お前……」
軽く感心するヴィヴィに、匠海が若干呆れた様子で零す。
「ショッピング……は、お兄ちゃん、いつもヴィヴィに色んなものプレゼントしてくれるし。あ~……、映画館は行ってみたいかも……?」
屋敷の大型液晶テレビで観るのも悪くはないが、きっと映画館の大きなスクリーンで観るのは大迫力だろうし。
それに、その後、兄とお茶をしながら感想を交し合うのも、きっと……ううん、とっても楽しそうだ。
「だろう?」
「でも、他の事に関しては、どちらかというと、ヴィヴィのせいじゃない?」
こてと首を傾げるヴィヴィ。
4年程前。
平昌五輪で金メダルを獲ったヴィヴィが強請った、最初で最後になる筈だったデート。
匠海はその時、渋谷でショッピングをし、その後レストランに連れて行く――普通のデートをする予定だった。
なのに、五輪で一気に注目と認知度を上げたヴィヴィが、109を出た所で気付いた人々に囲まれてしまって。
それ以降も、サングラスを掛けていないと、ヴィヴィだと気付かれる事が多い為、兄妹は中々人の多いところに外出する機会が無い――ただ、それだけ。
「ヴィクトリア……」