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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

 ポワント(爪先立ち)による、人間離れした軽やかな動きを可能にするため、指先を入れる部分(ボックス)は、糊でがちがちに固められている。

 そしてロマンティック・チュチュと呼ばれる、くるぶし丈のふんわりとした薄布のスカートも必須。

 妖精や精霊といった、実体の無い儚い風情を現すために考え出された、軽く透ける素材。

 立ち上がったヴィヴィは、とんとんとプラットフォーム(爪先の平の部分)を叩き、トウシューズの履き心地を確認し。

 お気に入りの黒のレオタードの腰から下、白のロマンティック・ボン(チュチュのスカートだけのもの)を掌で辿る。

 なんとこのレオタード、胸の部分だけベロア素材で、ぺちゃ胸をカバーしてくれる優れもの。

 きっとバレリーナの皆様は、ヴィヴィと同じ悩みを抱えていらっしゃるのだろう。

 うん、きっと、そうだ。
 
 そんなどうでも良い事を思いながら、バーを使ってアップをしていると、カンパニーの代表・吉野 都が現れた。

 ここ最近になってやっと、彼女直々のレッスンを受けられるようになった。

 それまでは他の講師に教わっていたのだが、『ジゼル』は吉野の十八番。

 彼女が現役時代に所属していた、英国ロイヤル・バレエ団でも、よく踊られていたらしい。

 “1幕.ジゼルのヴァリエーション”

 ピアノの生演奏に合わせ、ヴィヴィは4番からゆっくりと両腕を持ち上げる。

「ポーズとったら、息吸ってから~……、そうそう……、♪タンタンタンタン~、ラッタンタンタン~……、そう」

 その吉野の言葉を聞きながら、右へ左へ、うっとりとした表情と共に腕を送り、

 右へと数歩移動し、アラベスク(片脚を後ろに伸ばしたまま上げる)のまま数秒止まる。

「立ってから伸びる……UP! ……指先にも注意して」

 ポアント(トゥで立つ)で、軸足で無い方のトウをダブルで打つ。

「ジゼルは踊れて本当に嬉しい……、ずっと踊りたかったのに、心臓が弱いからお母さんに「駄目」と言われていて、やっと踊れるの」

 吉野の言葉に乗せられて、ヴィヴィの踊りは更に生命の輝きを増す。


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