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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
「アルブレヒト(ジゼルを騙している婚約者)を意識しつつ、踊れる嬉しさと、彼と会えた嬉しさ……そう」
そこで止められて、座って見ていた吉野が立ち上がり、レッスンが白熱していく。
「目線をはっきりとね。どこでもいいから、伏し目がちにするんじゃなくて、どこかこうフォーカスして……そうそうそう……」
音楽無しで続きを踊ってみせるヴィヴィに、吉野は同じふりを隣で身振り手振りで主張する。
「広い空間を感じて……。今 目の前には劇場の客席が広がってて、向こうまで届くように、大きく……そう!」
パッセ(片脚の爪先を軸脚の膝に持ってくる)から、アラベスクへ。
少しためを作ってから、プリエ(両脚を外旋させ、膝を曲げ伸ばす動き)をすっと立つ。
「彼がそこにいるのを、見なくても背中で感じる。そわそわドキドキ……。ヴィヴィの好きな人が、そこに立ってると思って?」
吉野のその指示にどきりとする。
匠海がすぐ傍にいて、ヴィヴィの踊りを眺めている。
そう思うだけでレオタードの胸内は高まり、愛らしい笑顔がより一層 幸福なものへと変わる。
「ふふ、ヴィヴィにとっては魔法の言葉よね。 “好きな人の前で踊ってるように” っていうのは」
続きから奏でられるピアノの音色。
小刻みなそれは何だか可愛らしく、白く透ける裾を両手で摘まんだヴィヴィも曲に乗せて、ロン・ドゥ・ジャンプ(脚で半円を描きながらジャンプする)で右へと移動し、
途中アティチュード(片脚を上げ、その膝を90度内側へと曲げたポーズ)を挟む。
「アティチュードは膝、もっと上げる、で、もっとクロス。正面から見てもクロスに見えるように……うん、いい」
ヴィヴィの軸足の膝前を、上げた脚がクロスし、その場で跳ねる。
「最後のマネージュ(舞台上で跳躍や回転技を連続して行いながら、円の軌跡を描く)……。押して押して! 先に先に、右肩上がってる」
広いレッスンルームを弧を描きながら、ピケ・アン・ドゥダンを連続で熟す。
自分の視界にも、白くてふんわりしたチュールが映り込み、
それにより踊る楽しさと、ちょっとした女心のトキメキなんかも生まれて、気分が上がる。