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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
最後、レヴェランス(膝を曲げてするお辞儀)で締め括ったヴィヴィに、
すっかりその存在を忘れられていた取材陣から「おぉ~っ」と拍手が上がった。
「うん、良いわね」
吉野の珍しい褒め言葉に、ヴィヴィは心からほっとした。
本格的にシーズンインすれば、連戦の為にバレエにまで時間を裂けない。
当初、他の講師に基礎から見直して貰い、『ジゼル』の振付を教わり。
いざ、本丸の吉野 都へ! ――と臨んだヴィヴィに対し、
『ウサギみたいな跳ね方はやめて』
『もっと早く進めない? 私が後ろから背中を押してあげましょうか?』
等々、吉野は容赦なく駄目出ししてきた。
(今から思えば、いい思い出……)
遠い目をしながらペットボトルを拾い上げたヴィヴィに、取材陣が声を掛けてくる。
「篠宮選手、バレエをやっていて、良かった事は何ですか?」
「ん~~、良かった事と言いますか……、都先生から学んだことは、沢山あって」
水を一口飲んだヴィヴィは、大きな瞳をぐるりと巡らせ、薄い唇を開く。
「棒読みの踊りにならないように、アクセントや波をつける。音楽の中で抑揚をつける。自分の中で歌いながら、音楽で遊ぶ……なんてことを。スケートに置き換えると、表現力に通ずるところを、沢山学ばせて貰っています」
そして取材陣は、吉野のところにもインタビューを撮りに行った。
さすがにヴィヴィも気になって、そそっと傍に寄って、やり取りを見守っていた。
「ヴィヴィの凄いところは、気持ちが切れないところかしらね」
吉野の思わぬ褒め言葉に、ヴィヴィの大きな瞳が真ん丸になる。
「大体がこう注意されると、そればかりに気が向いて “演じる気持ち” が切れちゃうけれど。ヴィヴィは何度止められても『ジゼル』になり切ってる。そこは天性ものですよね」
頷いて先を促すスタッフに、吉野が続ける。
「それに、やっぱり音楽に造詣が深いところかしら……。自分でも演奏出来るという事は、音の隅々まで把握して、次の動きが頭の中で組み立てられる。そういうところ、スケートでも旨く生かされていると思います」