この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
「篠宮選手が五輪シーズンに『ジゼル』を選んだのは、どう思われましたか?」
スタッフの問いに、吉野は両手を叩いて喜んだ。
「あ~、もうぴったり! って思いました。『ジゼル』はロマンティック・バレエ――演劇と舞踊が融合しているのに対し……、以前ヴィヴィも滑った『眠れる森の美女』に代表されるクラシック・バレエは、演劇と舞踊をはっきりと分離しています。ヴィヴィは役になりきるのが本当に得意。だから彼女の『ジゼル』は、素晴らしいプログラムになると信じています」
「都先生が、ヴィヴィのこと、褒めてる……っ」
そう驚嘆したヴィヴィに、吉野はカラッと笑い飛ばした。
「良いものは、ちゃんと褒めるわよ~。どんな鬼と思われてるのよ、私」
少しの休憩を挟み、次はスケートに直結するレッスンへと移る。
ヴィヴィがFPで演じるのは “恋人の裏切りを知ったジゼル ~ 精霊ウィリになり果てても、最終的に恋人を助けるジゼル”。
貴族のアルブレヒトの裏切りに気付いた後、ジゼルが息絶えるまでのシーンは “狂乱の場” と呼ばれる。
ピアノが奏でる音で、ヴィヴィは頭のスイッチを切り替える。
アルブレヒトの婚約者・貴族のバチルドが、狩りの途中でジゼルの住む村へ訪れる。
彼女の美しいドレスに見惚れ触れてしまったジゼルに、バチルドはもてなしの礼として首飾りをプレゼントする。
だが、2人は恋敵。
ジゼルを愛する村人ヒラリオンが、アルブレヒトの裏切りを明るみにし、場は一変する。
音楽はこれ以上ないほど悲劇的で、不安を煽るもの。
バチルドの掌に口付るアルブレヒトに、ジゼルは割って入り、必死に自分と彼は婚約していると主張する。
なのに、アルブレヒトは自分の問いに答えてはくれないし、バチルドは「自分こそ彼と婚約している」と。
ヴィヴィ扮するジゼルは、金色の髪を振り乱して錯乱し、ヒステリックに首飾りを引き千切る。
唯一の家族・母親に「心臓に悪い」と宥められるも、もう心ここにあらず。
以前、2人でした「好き、嫌い……」という花占いをなぞっては嘆き、
一緒に踊ったダンスを、ひとり辿っては狂う。