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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
ヴィヴィの小さな顔に現れるのは、恍惚と絶望の狭間を行き交う狂乱のそれ。
床に放置された、アルブレヒトの†の形をした細い剣を拾い。
その鋭い刃先を掴み、地面に大きな円を描き――天高く抱え上げ、自分の胸へ。
しかしアルブレヒトに剣を奪われ、母に抱き締めて窘められるも、
愛している人に裏切られていた、残酷な現実は何一つ変わらない。
床へと倒れこんだヴィヴィ。
乱れた金髪の中、空ろな瞳でゆらりと立ち上がり、
周りの村人の間を、一心不乱に駆け回る。
最終的にアルブレヒトの胸に飛び込んだところで、心臓が限界を迎え、こと切れる。
「………………」
床に仰向けに倒れていたヴィヴィは、一瞬の間を置いてむくりと起き上がる。
「こ、怖……っ」
思わず漏れたのだろう。
声のした方を振り向けば、音声スタッフが「やばっ」という表情で視線を逸らした。
「いえ、怖くないと困ります。 “狂乱の場” だから」
にかっと大きく笑ったヴィヴィは、ぐっしゃぐしゃになってしまった金髪を解き、結い直す。
一言も注意を寄越さなかった吉野の傍に寄るも、彼女から貰えたのは、
「うん、 “ここ” のヴィヴィに言うことは、何もないわ」
だけだった。
「じゃあ、次。 “2幕.グラン・パ・ド・ドゥ アダージョ” したいんだけど……。メンズがまだね?」
吉野が言うグラン・パ・ド・ドゥとは、男女2人の踊りを指す。
なのでいつも、Yバレエカンパニーの男性ダンサーが付き合ってくれるのだが、今日は来るのが遅い様で。
「僕で、良ければ……」
そう静かな声で立候補してきたのは、
「クリス、もう終わったの?」
スタジオの中に首だけ突っ込んだ状態のクリスに、ヴィヴィはほっとした笑みを零す。
クリスはクリスで、ここでモダンのレッスンを受けているのだ。
「うん……。ヴィヴィ、待ってた……」
そう言われて壁の時計を確認すれば、こちらの方がいつもよりレッスン時間が長引いていることに気付いた。
双子の兄の申し出に甘える事にし、位置に着く。