この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
苦笑しながら弟妹の様子を見守っていた長男は、最後に一言、こう付け加えてその話題を締め括った。
「でも俺は、アルブレヒトにっとてのジゼルは、唯一の愛する対象――女性だったと思うけれどな?」
余裕を滲ませながら、にっと嗤った匠海。
双子は一瞬 絶句し、
互いの顔を見合わせたのちに、一言。
「「大人は……、ずるい……っ」」
その3日後――10月8日(土)。
前日から大学の講義がスタートした双子は、埼玉スーパーアリーナにいた。
もちろん、2021-2022シーズンの初戦、ジャパン・オープンに出場する為に。
男女シングルの選手が、日本・北米・欧州の3チームに分かれて団体戦で競う、もうお馴染みの試合。
プロ・アマ混合で、FPのみで行われる。
小田 信成(33)
篠宮 クリス(19)
宮平 知子(23)
篠宮 ヴィクトリア(19)
個性的な日本チームは、小田の人柄の良さで、即席にしては素晴らしい団結力を見せた。
初披露となる五輪シーズンのFPは、もちろん注目の的だったが、
それと合わせて会場を沸かせたのは、各現役選手の勝負服。
『a songs for chris』を滑るクリスの衣装は、左上半身以外は光沢のある紺色。
18世紀の英国海軍の礼装を模したそれは、シルバーで装飾されたボタンホールが素敵で、左上半身は繊細な白のレースが、タイトなシルエットで覆っている。
“クリス自身” を表現するそのプログラムには、彼がこよなく愛する紺色が相応しい。
そして、ヴィヴィ。
『ジゼル』を滑る衣装は、振付のローリー・ニコルソンともよく話し合い、白一色とした。
『ジゼル』は、『白鳥の湖』『ラ・シルフィード』と共に “三大バレエ・ブラン(白のバレエ)” のひとつに数えられる、ロマンティック・バレエの代表作。
1幕の狂乱の場 ~ 2幕の精霊ウィリ を演じるヴィヴィの衣装は、ロマンティック・チュチュを模したSimple is Bestのもの。
チュチュと同素材の腰のリボンが、動くと精霊ウィリの羽の様に見えるのが愛らしい。
白いマーガレットを4本、茎で繋ぎ合せた簡素な花冠だけが、唯一の “色彩” を持つもの。