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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

「どう、しちゃったん、だろう……?」

 表彰台の一番低いところに上った羽生。

 中性的で小さな顔に笑顔を浮かべてはいるけれど、自分自身に対する憤りを隠せていない。

 ヴィヴィがぽつりと零した疑問に、クリスはソファーに深く凭れながら呟く。

「実は、2週間前に用事があって……。僕、結弦君に電話、したんだけど……」

 双子の兄が言う事には、羽生のプライベートで問題が発生したらしく、それでスケートに集中出来ていないのではないか――との事だった。

「そう、だったんだ……」

 ヴィヴィがそう返した時、ローテーブルに置いていたスマホが振動した。

 取り上げて確認すると、関西を拠点としている、宮平 知子からだった。

 彼女もチームメイトを応援しようと、リンクで仲間達とテレビ観戦していたらしく、

 文面から察するに、羽生の置かれている状況も把握しているらしい。

「なんか、出来ないかな? 結弦君を、元気付けられるようなこと……」

 彼が抱えている問題の根本は、自分には解決出来ないだろうが、せめて落ち込んだ心の癒しになることは、何か無いだろうか。

 ソファーの上で三角座りになり、膝を抱えながらうんうん唸るヴィヴィ。

 けれどそう簡単に、いい案は思い浮かばない。

「あ……、あれは、どうかな……?」

 隣のクリスの発した言葉に、ヴィヴィは「え?」とそちらに顔を向ける。

「ほら、ヴィヴィが英国で倒れて入院した時……。BSTの皆が、応援動画くれたよね……? あれ見た時、ヴィヴィ、笑ったたから……」

「……あ……」

 クリスの言葉に、ヴィヴィは16歳の時、英国のバーミンガムで行われた世界選手権の事を思い出す。

 匠海からの心無い言葉により、ストレス性の急性胃炎で病院送りになったヴィヴィ。

 帰りの飛行機でクリスから見せて貰った、元クラスメイトからの はちゃめちゃで楽しい動画は、ヴィヴィに沢山の元気と笑顔を与えてくれた。

「そっか……。そっかそっか! みんなで結弦君を楽しませられる動画、贈ろうっ」

 ヴィヴィの顔に、ぱあと明るい表情が宿る。

 それを見下ろしていたクリスは、ぽんぽんと頭を撫でて頷いた。

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