この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
「どう、しちゃったん、だろう……?」
表彰台の一番低いところに上った羽生。
中性的で小さな顔に笑顔を浮かべてはいるけれど、自分自身に対する憤りを隠せていない。
ヴィヴィがぽつりと零した疑問に、クリスはソファーに深く凭れながら呟く。
「実は、2週間前に用事があって……。僕、結弦君に電話、したんだけど……」
双子の兄が言う事には、羽生のプライベートで問題が発生したらしく、それでスケートに集中出来ていないのではないか――との事だった。
「そう、だったんだ……」
ヴィヴィがそう返した時、ローテーブルに置いていたスマホが振動した。
取り上げて確認すると、関西を拠点としている、宮平 知子からだった。
彼女もチームメイトを応援しようと、リンクで仲間達とテレビ観戦していたらしく、
文面から察するに、羽生の置かれている状況も把握しているらしい。
「なんか、出来ないかな? 結弦君を、元気付けられるようなこと……」
彼が抱えている問題の根本は、自分には解決出来ないだろうが、せめて落ち込んだ心の癒しになることは、何か無いだろうか。
ソファーの上で三角座りになり、膝を抱えながらうんうん唸るヴィヴィ。
けれどそう簡単に、いい案は思い浮かばない。
「あ……、あれは、どうかな……?」
隣のクリスの発した言葉に、ヴィヴィは「え?」とそちらに顔を向ける。
「ほら、ヴィヴィが英国で倒れて入院した時……。BSTの皆が、応援動画くれたよね……? あれ見た時、ヴィヴィ、笑ったたから……」
「……あ……」
クリスの言葉に、ヴィヴィは16歳の時、英国のバーミンガムで行われた世界選手権の事を思い出す。
匠海からの心無い言葉により、ストレス性の急性胃炎で病院送りになったヴィヴィ。
帰りの飛行機でクリスから見せて貰った、元クラスメイトからの はちゃめちゃで楽しい動画は、ヴィヴィに沢山の元気と笑顔を与えてくれた。
「そっか……。そっかそっか! みんなで結弦君を楽しませられる動画、贈ろうっ」
ヴィヴィの顔に、ぱあと明るい表情が宿る。
それを見下ろしていたクリスは、ぽんぽんと頭を撫でて頷いた。