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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

「ステップからの……3回転ループ」

 着氷後の流れの中、両肩から項垂れるように倒れては引き上げられる。

「なんかこう……、じっと魅入ってしまう演技ですね」

 鳥海アナウンサーの、しみじみとした声。

「ええ、本当に……。足換えのコンビネーションスピン……」

 上半身を氷と平行になるように反らせ、胸の上で組んでいた右腕が上へと延びていく。

 人差し指と中指を揃え天高く伸ばされるが、それはすぐに左手で握り潰される。

「レイバックスピンからの……、I字スピン」

「回転の軸がぶれないのも、篠宮の強さ」

 そう鳥海が唸る中、

 弦楽器が悲劇的に啼き、金管楽器が重苦しく下降を辿りながら吠える。

「フライングキャメルスピン……難しいポジションで、よくバランスが取れています」

 半身を反らせたヴィヴィは、まるで事切れたかのように、両腕を緩やかに垂らしていく。

 フィナーレを感じさせる、長くずっしりとしたオーケストラの響きが途切れる。

「演技後半、基礎点が1.1倍になりますが、ジャンプの要素を4つ準備しています」

 ヴィオラの静かで低いソロが、朗々と歌い上げる。

 リンクの左端で俯いて直立したヴィヴィ。

 軸足の左脚に沿い、研ぎ澄まされたブレードが昇って行き、

 腰高で曲げられた右脚は、弧を描いた両腕と共に、頭よりも高い位置まで引き上げられる。
 
 両腕を腰前に下しながら右に向き直り、

 ジャッジからよく見える位置で、横に上げていた右脚を身体の後ろへと引けば、
 
 氷から垂直に上げられた長い脚が、1本の線を描いているのが見て取れる。

「これは、美しい……」

 鳥海アナウンサーの賞賛を受けながら、ヴィヴィはそのまま前方へと伸び上がり滑っていく。

「次、2連続ジャンプを予定しています」

 バックに滑りながら、胸の前で伸ばして組んだ両腕を降ろし、

 哀しみを湛えた小さな顔は、「もうどうにもならない」とでも言いたげに、ゆらゆらと上半身を揺らせ、

「2回転アクセル+3回転トウループ」

 次いで、3回転ルッツ、

 3回転フリップ+2回転ループ+2回転ループ の3連続ジャンプを手堅く決めていく。

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