この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
「ジャンプは、あと1つ」
リンク全体を使ったアラベスクスパイラルは、精霊ウィリを表現する軽やかで、どこか儚げな印象。
「スパイラルの凝った入りからの……3回転サルコウ」
「ジャンプ、全てクリーンに降りました!」
興奮した男性アナウンサーの声。
「ステップシークエンス……。細やかにステップを踏みながら、これだけ大きく動くのは大変です……。エッジも深いですね」
ヴィオラの旋律が途切れ、静かに響き渡る4の刻を知らせる鐘の音。
「コレオグラフィック・シークエンス」
フルートの穏やかな音色に合わせたイナバウアーは、力無くだらりと背を反らせ、
上半身を大きく後ろに反らしたバレエジャンプは、チュチュを模した柔らかな白スカートをはためかせる。
トウを片手で掴んだスパイラルは、折り畳んでいた上半身が徐々に上がり、
ゆらりゆらりと柳の様に、長い両腕を運ばせる。
「フライングからの足換えコンビネーションスピン」
高く儚い弦楽器の、息の長い旋律。
キャメルスピンから、シットスピンへ。
ジャンプをして軸足を変えてからの、レイバックスピン。
そして、ビールマンスピン。
「最後のビールマンまで、回転速度が落ちず、ポジションも明確です」
全ての終わりを告げる、フルートの静かな音色。
スピンを回りきったヴィヴィは、左胸の下に両掌を上に向けて添え、
寂しそうに微笑んだ後、目蓋を閉じて俯いた。
一瞬の静寂ののち、わっと会場のボルテージが上がった。
「4分間を滑り終わり、やっと微笑みました、篠宮。4連覇の掛かるNHK杯での最終滑走……、そんなプレッシャーなんて、この19歳は感じていないのかも知れません」
「いやあ、素晴らしかったですね……」
リンク上でヴィヴィが四方に礼を送る中、解説の2人は感嘆の声を上げる。
「4年前、彼女の『サロメ』を観た時、「ああ、これは凄い子が出てきたぞ」と驚きましたが、五輪シーズン。その衝撃を上回る程のフリーを仕上げてきました」
「本当に。実はコーチ陣は、4年前にこの『ジゼル』を滑らせたかったそうなんですが……、きっと19歳の彼女だからこそ、ここまでの演技が出来たんじゃないかとも思いますね」