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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
妹の懇願を汲み取ったらしい匠海は、やっとその腰を解放した。
「ヴィクトリア。ごめん、いじめ過ぎたな」
くしゃくしゃになった金髪を指で撫で付けてくれる兄に、ヴィヴィはゆっくり頭だけ振り向いた。
「……っ おにぃちゃぁん」
どろっどろに甘えた声音に、くしゃりと歪む幼さの残る顔。
甘えん坊の妹に苦笑した兄は、その躰を引き上げて胸の中に抱き込んだ。
「ん? そんなに嫌だった?」
残念そうな色を滲ませた匠海の声音に、腰の上に跨らされたヴィヴィはふるふると首を振る。
「……あと、で……」
「うん?」
「夜……。いっぱいして……?」
中途半端に放り出すのではなく、最後まで愛して欲しい。
互いの言葉と躰を重ね、目の前の匠海と深く永く溶け合いたかった。
「分かったよ。ディナーの後は、逃がさないぞ?」
ヴィヴィの気持ちは伝わった様で、
そう言って抱き締めてくれた匠海も、とても幸せそうに感じられた。
嬉しくてにんまりしたヴィヴィは、更に兄にしがみ付く。
腰の上に乗せられているため、ちょうど首筋に顔を埋める形となり、ヴィヴィは兄だけの香りを胸一杯に吸い込んだ。
「お兄ちゃん、の……匂い……。大好きぃ」
とろんと蕩けたその声に、返された兄の言葉は、
「……お前は、大丈夫……なんだよな?」
匠海の言う意味が分からず、ヴィヴィは「え?」と疑問の声を上げる。
「普通、姉妹は兄弟の匂いを、厭(いと)うらしいぞ?」
「え? そうなの……? ヴィヴィ、小っちゃい頃から お兄ちゃんの匂い、大好きなのに」
ヴィヴィは高く細い鼻を、匠海の首筋にすりすりする。
兄の香りはまるで、緑萌ゆる深い森の中を感じさせるそれ。
どちらかと言えばヒノキに近い、ヴィヴィを癒しも高揚もさせてもくれる、愛おしい香り。
「近親者を恋愛対象に感じさせない為、らしい」
ヒトには免疫を司るMHC遺伝子がある。
自分の子孫を確実に残す為には、異なるMHC遺伝子を持つ相手と一緒になるべきで。
それは主に体臭として、パートナーの取捨選択に生かされているという。
(あ……、そう言えば「パパの加齢臭が~」とか「兄貴の部屋がクサいっ」って言ってる子、結構いるな……)