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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第30章                               

「AUN J クラシックオーケストラの皆さんは、邦楽界で活躍する若手ミュージシャンを集めて、もっとポピュラーにもっとシンプルにもっとかっこよく和楽器の可能性を表現し、世界へ向けて日本文化と和楽器の素晴らしさをアピールしていくことをコンセプトに活動していらっしゃいます。実はリーダーの井上さんお二人は双子なんですよね?」

 司会者のその言葉に、ヴィヴィはさらに驚いた。CDジャケットでしか彼らの姿を見たことがなかったので、初めてその事実を知ったのだ。

「そうなんです。瓜二つですし、二人とも髪がもじゃもじゃなのでよく間違えられます」と井上兄。

「楽器も同じ和太鼓と三味線ですからね」と井上弟。

 確かに二人はそっくりだった。彼らが双子であるという自分との共通点に、ヴィヴィは何かしらの縁を感じる。自分の片割れのクリスも、この会場のどこかでこれを聞き同じことを思っているのだろうか。

「最初の曲ですが、この曲はフィギュアスケートのオリンピック日本代表・篠宮ヴィクトリア選手――日英の血をひく彼女が滑ってくれると言うことを聞き、両国のなにか深い縁(えにし)を感じた曲です。ですのでこの式典で演奏させて頂けるのを、一同誇りに思っています。どうぞ楽しんでください――海の路(みち)」

 流暢な英語で曲の説明をしたリーダーはマイクを置き、和太鼓の細いばちを手にする。大きく振り上げられたその手が下されると、途端にあたりを荘厳な和太鼓の響きが埋め尽くす。それに被さる軽やかな三味線の音色。何故か懐かしさを感じさせる篠笛(しのぶえ)。対旋律を粛々と奏でる鮮やかな箏(こと)の音色。渋さ全開の尺八。

(ふぅぁ~~~……)

 ヴィヴィは心の中で言葉にならない溜息を漏らしながら、知らずしらず両手でぎゅっと匠海の腕にしがみ付いていた。生の和楽器の美しく力強い雅な音色に、ヴィヴィの薄い胸が文字通り揺さぶられる。

(凄い、凄い、凄い――!!)

 一つの旋律を幾通りもの表現で奏でながら盛り上がり、フィニッシュを迎える。

(私、こんな凄い曲って知らずに滑ってたんだ……今、物凄くこの曲を滑りたい――!)
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