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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

 翌日、12月10日(土)に行われた、男子シングルFPと女子シングルFP。

 他を寄せ付けない圧倒的な安定感と存在感でアベック優勝した双子は、気の早い英国国民に、格好の賭けのネタにされていた。

『ミュンヘン冬季五輪――男子・女子シングル、金メダリストは誰だ?』

 英国3大ブックメーカー(賭け屋)、ウィリアム・ヒル、ラッド・ブロークス、コラール。

 双子はそれぞれ約1.1倍で他を大きく開け放し、ぶっちぎりの大本命だった。
 
 それを嬉しそうなジュリアンから聞かされたヴィヴィは、

(これでミュンヘンで金、獲れなかったら……ヴィヴィ、自分に賭けた英国国民に恨まれる……)

 咄嗟にそう思ったのだった。






 中1週間空けて迫る、全日本選手権。

 早朝はリンクで朝練、9:00~16:20は大学、帰宅後は予習復習して、再びリンクと陸でトレーニング。

 大学もリンクも徒歩で行ける範囲内――そんな狭い世界(渋谷区)で、双子は過ごしていた。

(大学に来ると、気分転換になって、いいな……)

 いつも一緒の真行寺 円は頭の回転が速く、話していてどんどん話題が展開して面白いし。

 30人中6人しかいない女子のクラスメイトは皆、気持ちの良い子ばかり。

 個性的過ぎる男子達も、たまにびっくりさせられるが、新しい発見を常に与えてくれる。

「あはは、また始まった」

 ブリちゃん(フランス人留学生)のその声に、サンドウィッチを齧っていたヴィヴィは視線を移す。

 早々にランチを食べ終わったクリスが、どこから手に入れてきたのか、20cm四方のボンゴ(打楽器)を掌でポンポコ叩き出す。

 それに追随するのは、吹奏楽部の塩川。

 クラリネットをこよなく愛する彼は、少し大きめの眼鏡がずり落ちるのを時折直しながら、妖しい音色を奏で出す。

「何て曲?」

「う~ん、適当だと思う」

「何でいっつも、蛇出てきそうなインド系の音色な訳?」

「さ~あ?」

 ファッション誌をめくりながら、ぼそぼそと囁き合う女子達は、それでも可笑しそうに2人を見守っていた。

 スケートの話は一切無し。

 その環境が今の双子には必要で、屋敷以外でリラックス出来る唯一の場所となっていた。





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