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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章                 

 全5組あるグループの4番目。

 前に滑った選手達が、肩を落として帰って来たり、至極満足そうに興奮状態で帰って来るのにすれ違うと、

(な、なんか、ヴィヴィのほうが、緊張してきた……)

 滑走順が迫り、衣装に着替えに行ったクリスを待つヴィヴィ。

 ペア・スケーティングの下城・成田 組に付いていたジュリアンが合流し、娘の緊張した様子に「はっ」と鼻で笑っていた。

 クリスを先頭に、柿田トレーナー、ジュリアン、ヴィヴィがぞろぞろ付いて行く。

 バックヤードからリンクサイドへと入ると、会場の熱気がむっと押し寄せて来るようだった。

 日本男子は4年前から、2大巨塔が牽引している。

 2014年 ソチ五輪 金 羽生(はぶ) 結弦(28)

 2018年 平昌五輪 金 篠宮 クリス(19)

 逆に言えば、常にトップを走り続ける2人以外は、世界で最終グループに残るに必須と言われている4回転ジャンプが安定せず――という状況だった。

 なので普通に考えれば、この2人が五輪代表に選ばれるのは ほぼ確定だが、SPというのは7つしか要素が無い。

 いかに規定通りの要素が熟せるかを見られるので、SPでのミスはFPでのミスとは比重が違う。

 よって、SPはFPに比べて滑走時間は短いが、失敗が許されないという精神的負担が大きい。

 前に滑った西森 真瑚(19)と入れ替わりに、クリスがリンクへと入って行く。

 エッジカバーを受け取ったヴィヴィは、それをまるでクリスの代わりとでもいう様に、ぎゅうと握り締める。

 フラワーガールの間を縫いながら滑るクリスは、何度も何度もサルコウジャンプの踏切と軸を確認していた。

 所属大学のウィンドブレーカーを脱いだ下、纏っている衣装は極めてシンプル。

 立襟の柔らかな白シャツはV字に開いており、首元で細いリボンが緩く結わえられている。

 下はその脚の美しさを際立たせる、細い黒パンツ。

『24番 篠宮 クリスさん 東京大学』

 アナウンスに呼ばれ、クリスが「ふう~」と大きく息を吐き出す。

「SMILE、クリス」と、ジュリアン。

「素敵なクリス、見てるね」と、ヴィヴィ。

 それぞれにうんうんと頷いて見せたクリスは、たった1人でリンクへと出て行った。

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