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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
J・S・バッハ 作曲『無伴奏チェロ組曲 第1番ト長調』より プレリュード
振付:ローリー・ニコルソン
“チェロの旧約聖書” と謳われる『無伴奏チェロ組曲』の6曲の中で、特に人気の高い1曲。
20世紀前半まで ほぼ忘れられた存在だったこの曲は、とあるチェリストに真価を見出され、その名演をきっかけに音楽史上に残る傑作として今日まで愛され続けている。
クリス自身、中学生の頃によくこの曲を練習していた。
両腕を後ろに垂らし、斜め下を見つめるクリスを、チェロの音色が導く。
タイトル通り、チェロ1本で奏でられる音色に乗せ、クリスは4回転サルコウを踏み切った。
「……っ っしゃ!!」
美しい着氷を見届けた途端、ヴィヴィの薄い唇からは少女らしくない声が漏れた。
3本中2本のジャンプは、基礎点が1.1倍となる演技後半に。
それまでの間、ヴィヴィはうっとりと双子の兄に見惚れていた。
音を的確に捉えたステップには気品があり、柔軟性を生かしたビールマンスピンは女子に見劣りしない優美さ。
重厚なチェロの独奏曲を多彩に表現して魅せたクリスは、堂々の1位でSPを締め括った。
12月23日(金)、大会2日目。
14:20から始まった女子シングル SP。
ドローイング(抽選)で決まった最終グループのメンバーは、以下の通り。
25番 大場 雅(27)
26番 本郷 理香(26)
27番 竹内 粋(すい)(19)
28番 宮平 知子(24)
29番 本田 まりな(21)
30番 篠宮 ヴィクトリア(19)
竹内以外は特別強化選手で固まるという、厳しいグループとなった。
そんな中、最終滑走のヴィヴィは冒頭の3回転アクセルでGOE(出来栄点)2.0という、心臓の強さを印象付けながら、もちろん首位で折り返した。
そして18:35から始まった男子シングル FP。
取材やクールダウンを手早く熟したヴィヴィは、なんとかクリスのリンクサイドに駆け付けた。