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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
演技開始直前にそんなコントを繰り広げたヴィヴィは、リンクサイドに入っても、こんな大一番だというのに、ほとんど緊張していなかった。
というか、変な風にジゼルになり切っていた。
ジュリアンの決め台詞「SMILE!」にも笑わないし、
クリスの「緊張、してるの……?」という心配げな問いにも、曖昧に頷くだけ。
名前をコールされて、とっととFPのスタート位置へと着いてしまった。
残された2人はというと、互いに顔を見合わせた後、肩を下げ、
「ま、何とかなるでしょ……」
「だね……」
そう囁き合い、滑り始めたヴィヴィへと視線を戻したのであった。
会場に響き始めるのは、フルートとクラリネットの物憂げな音色。
“第1幕.狂乱の場と終曲”
氷上に両膝を着いたヴィヴィは左手に花を持ち、右手で花弁を引き千切る。
1枚目は、初恋の喜びや恥じらいを湛えた微笑みで。
2枚目を摘まむ時には、弧を描く唇とは不釣り合いに、泣きだす一歩手前の表情で、大きく首を振り立ち上がる。
美しいオーケストラの音色に乗せ、助走に入る。
気持ちを押し殺そうとするかの如く、首を覆っていた両手が徐々に胸元へと降りていき。
充分なスピードで踏み切った3回転アクセルは、練習通りのスムーズな着氷。
バックに滑りながら縋る様に華奢な両腕を天へと伸ばすも、一瞬の躊躇ののち、絶望と共にだらりと下される。
3回転アクセル+3回転トウループ。
弦楽器が奏でる、悲劇的で重いフレーズに、管楽器の重厚な和音。
両手で頭を抱えたヴィヴィは、震える指先で簡素な花冠を辿りながら俯き、
バックへと助走しながら、揺れる心の内を描くように、片腕をゆらゆらひらめかせながら降ろす。
ステップからの3回転ループ。
その着氷の中、両肩から項垂れた上半身はゆらりと引き上げられる。
足換えのコンビネーションスピン。
上半身を氷と平行になるようにしならせ、胸の上で組んでいた両腕のうち、右腕だけが恐る恐る上へと延びていく。
人差し指と中指を揃え天高く伸ばされたそれは、すぐに誰かの目から隠す様に左手で握り潰される。
そのまま左脚を掴みあげてのI字スピン。