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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
冒頭、白いシャツを纏った中居の琴にスポットライトが当たり、観客の目がそちらに釘付けになる。
その30秒の間に、徐々にリンク上のヴィヴィにも薄暗いスポットが降り始める。
頭から白の半透明のベールを被ったヴィヴィ。
その下に纏っているのは、胸に朱の細いハイピングが入った、白のベアトップワンピース。
膝上の丈のそれは一見シンプルだが、スカートの中は3重の朱色のスカートが重ねられ、ショーツ部分も朱色。
動いた途端に華やかになる、素敵な衣装だった。
そして両手に携えているのは、大輪の白い薔薇達。
絹の様に繊細な旋律を奏で始めた白砂に、ヴィヴィは両腕に抱えた薔薇を捧げ掲げる。
彼も白シャツにグレーのベスト姿と、3人とも白で統一していた。
切なく美しい響きに、うっとりと滑り始めるヴィヴィ。
風を受けたベールが白煙の様に細い肢体に纏わり付く様子が、暗いリンクに浮き彫りになる。
やがて高速になる曲に合わせ、代名詞でもある3回転アクセルを飛べば、観客からどよめきが起きた。
通常の『花のように』では、白のベールを被っていなかった。
まさか今日、そのままアクセルを飛ぶ無茶をするとは、思っていなかったらしい。
流石に手にしていた薔薇達は、リンクへと置いていたが。
予想外の反応が得られて にんまりしたヴィヴィは、極薄のベールを剥ぎ取り、リンク中央に落とす。
舞台上では、白砂が悦に入ってヴァイオリンを響かせる。
長身でスタイルも良くて、かの人に瓜二つでイケメンの白砂は、早くも観客の視線をそちらへと引き寄せていた。
ちょっと面白くなかったヴィヴィは急遽構成を変更し、飛ぶ予定の無かった高難度の3回転ルッツ+3回転ループを飛ぶ。
通常、試合では(訳あって)2ndに入れない3回転ループは、それでもスムーズに着氷し、観客の目を攫った。
にんまりしたヴィヴィは舞台の傍まで寄り、顎をつんと上げて白砂を煽る。
教え子の暴挙に気付いた白砂が、一層身体を揺らし、情感を込めて弾き込んでいく。
さすが尊敬する、自分のヴァイオリンの師匠。
その太く色気のある重音に聞き惚れたヴィヴィは、その気持ちのまま、また滑り始める。