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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第111章
琴の裏連(爪の裏を使って、高音から低音に向かって連続して弾く)の響きに、細やかなステップを踏み、
リンクの冷たい空気に溶けいる澄んだ高音に、スピードに乗ったスパイラルを重ねる。
(やっぱり、この曲……好きだなぁ……)
約4分の間、まれに悪戯心を発揮しながら、エキシビション・ナンバーを滑り終えたのだった。
そして、女子シングル 五輪代表選手を迎えて、ショーの特設舞台でのインタビューが行われた。
「さあ こちらには、ミュンヘン五輪 女子シングル 日本代表――篠宮 ヴィクトリア選手、宮平 知子選手、そして本郷 理香選手、にお越し頂きました」
司会でジャニーズの櫻井が、そう3名を紹介する。
「「「よろしくお願いします」」」
「まずは、篠宮選手にお伺いします。トリを飾るエキシビション、いかがでしたか?」
その質問に、マイクを握っていたヴィヴィは、満面の笑みになる。
「とっっっても、幸せでした!」
「どんなところが幸せでしたか?」
女子アナの問いに、ヴィヴィは斜め上を見つめて言葉を探す。
「ん~……、この曲に初めて出会った時、ヴィヴィ、泣いてしまって……。感動? したんだと思うんですけれど。今日は贅沢な生演奏に乗せてだったので、自分が感じたその時の気持ちが、少しでも観ている人に伝わればいいなと思いながら滑っていました」
「ちゃんと伝わりましたよ。少し、演奏者を煽ってるようにも見えましたが」
櫻井の鋭い指摘に、会場の観客も同意見だったのか、どっと笑いが起こった。
「そんな篠宮選手。これまで滑ったエキシビション『花のように』の中で、毎回違うお花を携えて滑っているのですよね?」
「あ、はい」
今日は白薔薇だったが、ヴィヴィは毎回 “白い花” を選んで使っていた。
「こちらにフリップがあるのですが、5月から毎月ショーに出られていて、試合を含めるとなんと、計11種類ものお花があるんですね?」
「わ~、これ、欲しい」
大会やショー毎に、写真を入れて纏められているフリップは、素晴らしい出来だった。