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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

「はい。私も、年始のご挨拶が出来ると思って、楽しみにしいてたので残念です」

(あの懇親会に参加出来れば、いっぺんに名立たる経営者方と、年賀を交わせたのにな~)

「ま、五輪終わってから、ゆっくりまた顔だしてよ? で、どう、調子は?」

「はい。おかげ様で、いい感じです」

 にっこり微笑んだヴィヴィに、伊藤の丸顔がさらに丸くなる。

「いい感じ! それは頼もしい」

 そして話が途切れた突端、他の経営者が話しかけて来てくれる。

(あ゛~~、若輩者のヴィヴィから、ご挨拶に行かないとなのに~~っ)

 ヴィヴィは胸の内で頭を抱えながら、それでも表面上は落ち着いて対応する。

「鈴木会長、この前教えて頂いた本、読みました。あれですよね? “~であるからにして、顧客心理の爆発点は、一概にキュレーション戦略に裏打ちされているのである。” という結論付けが、強引過ぎるっていう」

 エイト&アイ・ホールディングスCEOの鈴木に、ヴィヴィが人差し指を立てながら発すれば、

「そうそう! 岡安サンの書籍、いっつもそうでさ。ま、私のも大概適当だけどねえ」

 鈴木は両腕を胸の前で組みながら、くっくっくと笑う。

「そちらも拝読しました。 “経営の不易”」

「え? 年末に出版したばっかりだよ? ヴィヴィちゃん、忙しいのに……」

 立派な眉が細めの瞳と一緒に持ち上がり、眼鏡の奥で驚きの表情を形作る。

「年始に纏まった時間があったんです。そうそう、それについて、質問したいことあったんです。あの――」

 心底興味深げに、話しこみ始めたヴィヴィと鈴木。

「なるほど……。確かに、外交官向きだね~」

 そう小声でクリスに耳打ちしたのは、着物姿の円。

 クリスはいつもの無表情ながらも、「だね……」と囁いた声には驚きが滲んでいた。

 1時間ちょっとして、全ての知人に挨拶したヴィヴィは、19歳の少女としてパーティーを楽しんだ。

 クリスと美味しそうなオマールエビに舌鼓を打ったり、

 円とチョコレートファウンテンを楽しんだり。

 控えめにきゃっきゃとはしゃいでいると、円と太一の母――真行寺夫人が笑顔で近付いて来た。

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