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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
ヴィヴィとクリスに「楽しんでくれている?」と声掛けした夫人は、娘へと向き直る。
「円ちゃん、紹介したい方がいらっしゃるの」
「は~い、ママ」
素直に了承した円は、手にしていたチョコたっぷりの苺をガン見し。
ぱくと口の中に放り込み、ウーロン茶と一緒に飲み込んで行ってしまった。
「………………?」
母子の着物姿を見送りながら、ヴィヴィは微かに首を傾げる。
なんだろう。
ここに来た時から、ううん、ご両親を紹介された時から感じている、そこはかとない違和感――。
「ヴィヴィ……?」
隣のクリスが不思議そうに覗き込んでくる。
「ん? あ、何でもないの。次は、マスカットいってみない?」
そう言って大きな粒にピンを刺した頃には、ヴィヴィの小さな頭の中からは、微かなズレは跡形もなく霧散していた。
シーズン中、唯一試合の無い1月は、異様に忙しかった。
1月7日(土)~9日(月・祝日)は、STARS ON ICE 東京に。
その翌日から、東大の授業が始まり、
1月14日(土)~15日(日)は、STARS ON ICE 大阪。
その合間合間に、双子は交互にスポンサーの壮行会巡りをするという。
学期末試験開始まで、2週間。
五輪開会式まで、3週間。
(ヴィヴィは全く観なかったが)連日、各局が冬季五輪の花であるフィギュア関連情報を取り上げ、双子の元へも毎日入れ代わり立ち代わり、取材が来ていた。
(はあ……、いよいよ、オリンピックですか~……)
リンクサイドのフェンスに凭れ掛かり、ヴィヴィはふと能天気な事を思う。
この4年間、本当に色々な事があり過ぎて。
それらは全て生まれてこのかた、経験の無い事ばかりだった。
でも何とかかんとか乗り越えて来られた。
コーチをはじめとする、チームのサポートを得ながら。
暖かな家族の思いやりに包まれながら。
そして、匠海という最愛の恋人に一喜一憂させられながら。
だから今のヴィヴィは意外や意外、来るべき時に向けて、どっしり構えて用意が出来ているのだ。