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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 スポンサーの日本国際航空が用意してくれたビジネスクラス。

 ヴィヴィの隣を陣取ったクリスは、早々にラフな格好に着替え、いつも通りの無表情でiPadを見つめていた。

 ヴィヴィも同じく、iPadに視線を落とす。

 2週間ある学期末試験の内、双子はまだ半分しか試験を受けれていない。

 4日後の2月10日(金)に帰国して追試を受けるので、抜かりなく勉強し続けなければならず。

 よって、iPadの中にあるのは、各教科のテキストや要点を纏めたノートだったりする。

 12時間もあるフライト中、双子は一時も時間を無駄にせず、勉学に励んでいたが。

 やがて日頃の疲れがたたって、吸い込まれるように眠りへと落ちてしまった。

 トイレに立って通りがかった牧野マネージャーが、おなかの上にiPadを乗せたまま熟睡する双子に気付き苦笑する。

「寝姿までそっくりだな……。風邪ひくなよ?」

 そう囁きながらそれぞれのiPadを直し、ブランケットを胸まで掛けてやる。

 牧野が見下ろす安らかな寝顔の下、ヴィヴィはというと夢の中で昨夜の事を反芻していた。




 白いベッドに潜り込んだヴィヴィを、隅に腰かけた匠海が頭を撫でながら寝かしつけていた。

『お兄、ちゃん……』

『ん?』

『……あの、ね?』

『何だい?』

 サイドランプだけが灯された薄暗い寝室。

 寝かしつけているのに、まったく寝入る様子のない妹に、匠海は苦笑しながらも付き合ってくれる。

『……えっと、もし、もしだよ? 金メダル、獲れたら……』

『獲れたら?』

 何故か言い淀むヴィヴィを、匠海が柔らかな声で誘導する。

『……ん、ヴィヴィ、お兄ちゃんから欲しいもの、あるの……』

『え? 欲しいものって、何?』

 そう囁いた匠海の表情は、少し意外そうだった。

 ヴィヴィは恵まれたお嬢様だからか、無欲で。

 匠海自身を欲すること以外は、珍しかった。

 『ヴィクトリア?』と聞き直されたのに、ヴィヴィは何故か羽毛布団の端を掴み、瞳の下までそれをずり上げる。

『……秘、密……』

『どうして?』

『……獲れなかったら、すっごい間抜け……だもん』

 自分で強請っておきながら、口を割ろうとしないヴィヴィに、匠海は声を上げて笑った。

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