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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
『ははっ 別にどんな結果になっても、ヴィクトリアの欲しい物だったら、何だって買ってあげるよ』
そう言う兄の頭の中では、きっと『宝石? マンション? 自分だけの車?』とぽんぽん高額な物が思い浮かんでいることだろう。
『ん~ん。金、獲れたら……』
何故かそこだけは頑として主張する妹に、
『個人戦で?』
兄のその確認に、ヴィヴィはこくりと上掛けの中で頷いて見せた。
『分かった。じゃあ、是非プレゼントしたいから、頑張っておいで』
そう言って励ましてくれた匠海の瞳が、本当に自分を包み込んでくれる様に暖かなもので。
ヴィヴィは大きな瞳を細めて、『うんっ』と威勢良く頷いた。
『可愛い顔、見せて?』
恥ずかしがって瞳の下まで隠していた羽毛布団が捲られ、頬の輪郭を暖かな掌で包まれる。
丸みの残るそこを撫でていた右の掌は、やがて咽喉を伝い、その先の肩の線を辿っていく。
『細い、肩だな……』
『………………?』
『俺……ヴィクトリアのこと、本当に尊敬している』
兄のまさかのその告白に、ヴィヴィは咄嗟に『え?』と聞き直してしまった。
『こんなに細い肩に、日本の――いいや、世界中の期待を一身に背負って……、あんな広いリンクで、たった1人で戦っている……。並大抵の努力では、出来ないことだよ』
しみじみと呟きながら、自分の肩を撫で擦る匠海に、ヴィヴィはというと身体を横たえたまま驚きで一杯だった。
(お兄ちゃん……、そんな風に思っていたの……?)
違う。
自分はそんな大それた人間なんかじゃないのに。
その心のまま、白い枕の上でゆるゆると頭を振る。
『……ひとり、じゃないもん』
『ん?』
『サブコーチも、柿田トレーナーも、牧野マネージャーも……、もちろん、マムもダッドも、クリスもいてくれる』
リンクの外では沢山のスポンサーに支えられ、スケ連にも、国にも、そして楽しい友人達や、無数のファンにも支えられている。
『そうだな』
ちゃんと周りへの感謝を忘れない妹を、兄は誇らしげに頷きながら瞳を細める。