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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第31章            

 2018年2月7日。韓国、平昌(ぴょんちゃん)郡。

 2月3日から開幕したオリンピックの最中、ヴィヴィはサブリンクでの調整を終えると、村下佳菜子と宮平知子と連れ立ってフィギュアスケート団体戦が行われる鏡浦(きょんぽ)アイスホールへと向かう。

 フィギュアの代表選手10名は、スケ連が用意した『アイスハウス』と名付けられた会場近くのコンドミニアムに滞在している。本来ならば選手村に滞在すべきであろうが団体戦や個人戦で過酷なスケジュールの選手達に配慮し、各人に個室を確保し尚且つ白熱する各国の報道陣から隔離して集中できるようにという考えだった。

 団体戦初日の今日は現地時間の夜7時から、男子SPとペアSPが予定されている。実は大会前日まで男女ともにシングルの登録を誰にするかは決定していなかった。各選手の状態や各国の出方、団体戦での戦略を関係者総出で綿密な摺合せをし、男子シングルのSPの代表選手は昨日の夜になりやっと羽生(はぶ)結弦を出場させることを決定したくらいだ。

 団体戦の参加国は10ヶ国。その中で男女シングル各1名とペアのSP、アイスダンスのSD(ショートダンス)の合計が上位の5チームが各FP、FDへと進むことが出来る。

 ヴィヴィ達は先に会場に到着していたアイスダンスの渋谷兄妹と、控え選手として会場でスタンバイしていたクリスや日野龍樹と一緒に、選手席で声を張り上げて日本代表を応援する。

「リーダー頑張れ~っ!!」

「結弦! FIGHT~!!」

 羽生のSP――映画『マスク・オブ・ゾロ』の曲が流れる直前まで応援した選手達は、皆それぞれ祈るように手を握りしめながら最初の四回転サルコウを見守る。

 緊迫感のあるギターソロに乗せ羽生のしなやかな体が宙を舞い、綺麗な回転軸を保ち氷上に着地する。

「あ……っ!」

 ヴィヴィの後ろに座ったアイスダンスのアルフレッド渋谷が咄嗟に声を漏らし、同時にヴィヴィも口を両手で覆った。回転数は足りていたのに勢いが良すぎて、着氷後のトレースでターンしてしまった。しかしその後崩れることはなくしっかりとジャンプもステップも纏めた羽生は、見事な剣さばきの振付で会場を大いに沸かせた。

 フィニッシュした羽生に、選手達は立ち上がって大きな拍手を送る。滑り終えた羽生はうんうんと小さく頷き、自然な仕草で左手の指輪に口付した。

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