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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第31章
「大丈夫、あれくらいのオーバーターンなら」
日野の呟きに皆が同意し、四方に礼をして選手席の隣のキスアンドクライへと戻ってくる羽生を出迎えた。
「お疲れぃっ!!」
「痺れたぜ~っ、ゆづっ!」
「今日もオーチャーコーチ、一緒にジャンプ飛んでたね!」
口々に褒め合って羽生の体をバシバシ叩く。
「きんちょ~した~~っ!!」
キスアンドクライのソファーに倒れこむように座った羽生の第一声はそれだった。よほど緊張していたのか、彼のラッキーアイテムであるクマのプーさんのティッシュカバーを胸にぎゅうと握りしめている。
「よくやった!」
「超カッコ良かったよ、さすがリーダーだね!」
皆で健闘を讃えながら得点を待つ。発表されたのは羽生の今シーズンのシーズンベスト相当のものだった。各国の選手10名が滑り終えた時点での羽生の得点は4回転のオーバーターンがひびいたが、それでも大健闘の2位。
『リーダーの熱演!(笑) でナル達も俄然火が着いたよ! 見てて!!!』
ペアの六分間練習の後に羽生の元に届いた棚橋成美とマーヴィン藤堂からの熱いメールに、一同さらに応援に熱が入る。第2グループの3番滑走で現れた棚橋とマーヴィンのSPは、芸術面でも評価の高い映画『天使と悪魔』。
天使を髣髴とさせる純白の衣装に身を包んだ小さな棚橋と悪魔の如き漆黒の衣装のマーヴィンが、サイドバイサイドの3回転サルコウを見事着氷する。
男女混成の合唱曲に乗せ、激しい振付と次々と決まる3回転ツイストリフト(男性が女性を投げあげて空中で回転し、男性が受け止めながら着氷するジャンプ)、スロー3回転ジャンプ(男性が女性を投げて女性単独で着氷するジャンプ)に観客の熱がどんどんと高まっていくのをヴィヴィは肌で感じていた。
マーヴィンが円の中心でピボットの体勢で片手を支え、棚橋が氷と水平になるまで体を倒して円を描くデススパイラルでフィニッシュすると、会場からは惜しみない拍手が送られる。手堅くSPを滑り終えた二人はそれぞれ指輪をした左手の拳を合わせて健闘を湛えると、満足そうな表情で四方へと礼を送る。
「明日はいよいよ、私達の番だね……」
ヴィヴィの右隣に座っている宮平が拍手をしながらそう呟き、ヴィヴィと村下は彼女を見つめる。視線を合わせた三人は深く頷き合った。