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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第31章
(誰が選ばれるかは、分からない……けれど、出来るならば、私も滑りたいな……)
オリンピックのリンクは、やはり他のシニア国際大会に比べて独特の空気を醸し出していた。憧れの舞台に立てるという高揚感が掻き立てられたかと思えば、オリンピック常連の選手でさえも時として魅入られる五輪の魔物という恐怖に脅かされ、さらに各国の選手が国の威信を掛けているという重圧感が加えられ、言いようのない雰囲気が漂っていた。
(怖い……けれど、それを上回る魅力もある……)
ヴィヴィはそう心の中で思いながらも、キスアンドクライへ滑ってくるペアの二人を立ち上がって笑顔で迎え入れた。
2月8日。
現地時間の夜6時。団体戦2日目の今日はアイスダンスのSD(ショートダンス)、女子シングルのSP、ペアのFPが予定されていた。女子シングルのSPは関係者全員でのミーティングの上で、村下佳菜子が出場することになった。
ヴィヴィと宮平は念のため控え選手として直前練習まで舞台裏にいたが、村下が直前練習で良い状態だと判断されたので、選手席で応援しているチームメイトの元へと合流した。
ヴィヴィ達はバックヤードでモニター越しにしか観戦できなかったが、アイスダンスの渋谷兄妹はSDをそつなく滑りきり、アイスダンスの中では3位の順位につけていた。その二人もテレビ局のインタビュー等を終え、今は選手席で応援している。
「Kanako Murashita From JAPAN」
韓国語と英語でアナウンスされた村下は、リンクの中で流しながらいつものように胸の上に掌を乗せて精神統一をしている。そして時間いっぱい使ってポージングをするとSPの曲が流れ始めた。
エレクトリック・ヴァイオリンとサイレント・チェロを用いたバンド――BondのVictory。かっこいい曲調は村下にぴったりのはまりプロだ。今シーズンSPの調子がすこぶる良い村下は、カッコいい女を演じ最高の演技を魅せた。
そしてペアはFPを最小限のミスで滑りきり、ペアの順位としては3位につけた。団体戦2日目の時点での順位は1位ロシア、2位アメリカ、3位日本。しかし4位のカナダとは僅差という状況だった。