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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

「ほら、感動の再会はそこまで! クリス、アップ始めなさい」

 ジュリアンの一声で、クリスは試合モードに切り替わり、柿田トレーナーと一緒にストレッチルームへと行ってしまった。

「舞ちゃんと達樹君、健闘しましたね?」

 ヴィヴィが日本にいた間、ペア・スケーティングの個人戦が行われていた。

 団体戦に出場した、棚橋 成美(31)・マービン 藤堂(33) 組は、3位に。

 今回が五輪初出場となった下城 舞(24)・成田 達樹(24)組は、11位。

 SPで20組中16位以内でないとFPに進めないのだが、彼らは順調にFPまで進み好成績を残せた。

「ふふ。誰がコーチしてると思ってるのよ?」

 豊かな胸を反らせたジュリアンに苦笑し、ヴィヴィはとりあえず「お疲れ様でした」と、母 兼 コーチを労っておいた。






 見事、SPで4回転サルコウを着氷したクリスは、大方の予想通りSPを1位で折り返した。

 そして我らがリーダー・羽生(はぶ) 結弦も手堅く4回転トウループを決めて2位。

 遠く離れた日本では、「日本男子の1・2フィニッシュも夢ではない!?」と大騒ぎだった。






 そして翌日、2月16日(木)。

 SPと同じく19:00(日本時間:翌日3:00)から始まった、男子シングルのFP。

 ヴィヴィはこの日も、クリスのリンクサイドに立った。

 何もしなくていいから、傍に居てくれるだけでいい。

 双子は互いに、相手をそうして必要としていた。
 
 SPの順位でグループを分け、抽選を行った結果、

 なんと最終グループの第4グループでは、

 5番滑走 羽生 結弦  SP2位

 6番滑走 篠宮 クリス SP1位

と、ガチンコ対決となってしまった。

 俄然、クリスにとっては不利だ。

 SP2位の羽生が目の前で完璧な演技をすれば、クリスにとっては「失敗が許されない」とプレッシャーに。

 反対に羽生が崩れる事があれば、そこは同じ日本選手――その不安や嫌な空気は、伝染する可能性が高い。

 ――と、世界中のマスコミは騒いでいたが。

 本人同士は、対して気にしていない様子だった。

 全日本や世界選手権で何度も似たような状況はあったし、互いに「己を極める」という事に重点を置いている選手だから。

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