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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「………………」
観客席に向かって深々と礼を贈る双子の兄を、ヴィヴィはうっとりと見つめていた。
カメラが自分の表情を捉えようと必死になっているなんて、気付きもせず、
ただただ同じスケーターとして、クリスに尊敬の念を抱いていた。
少し疲れた様子で戻ってくるクリス。
最終グループの最終滑走、それも4年に1度しかない五輪の。
さすがの双子の兄も、疲弊したようだった。
「……~~~っ!!」
たぶん、頭の中に褒め言葉が溢れ過ぎ、逆に何も出て来なくなったのだろう。
ジュリアンが両腕を開いて息子を抱き締め、何故か背中をバンバン叩いて喜びを表現していた。
そして長い抱擁の後、ヴィヴィからエッジカバーを受け取り装着したクリスは、
日本代表ジャージを差し出してくる双子の妹を、常より更に高い位置からじいと見下ろしてくる。
「……ハグ、は……?」
少し拗ねた様子のクリスに、ヴィヴィの胸が何故かキュンと疼く。
何なんだろう。
今日のクリスのカッコよさと可愛さは。
ヴィヴィはめい一杯背伸びすると、その金色の頭を両手で挟み、自分の肩へと抱き込む。
そしてその耳に吹き込んだのは、
「ほ……、惚れてまうやろ……」
何故か、関西弁だった。
(だ、だって、だって……っ 凄く素敵だったんだもん……っ!!)
それはヴィヴィなりの、最上級の褒め言葉だった。
細腰を片腕で抱き寄せたクリスは、肩口でふっと息を吐いた。
顔は見えなかったけれど、たぶん苦笑したのだと思う。
そして、一言。
「駄目だよ……、僕は “お兄ちゃん” なんだから……」
妹を窘めた兄は、さっと腰の拘束を解き、
前髪越しにちゅっとキスを落とすと、踵を返してキス・アンド・クライへと歩いていく。
「……~~っ!?」
しばしその場で硬直していたヴィヴィ。
自分が立っていることで、係の女性がリンク入口を封鎖出来ずに苦笑いしていることに気付き、慌てて飛び退く。
そして、先を行ってしまっているクリスとコーチ陣を、小走りで追い駆けた。
その小さな頭の中で思っていた事はと言えば、
(ク、クリスって……、将来、絶対にプレイボーイになると思うの……)
唇の感触を覚えたそこが、何故かちりりと熱を持った気がした。