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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「では最後に、個人戦へ向けてお一人ずつ抱負をお願いします」
司会者のその要望に、
「2回目の五輪です。悔いを残さないよう、精いっぱい自分をぶつけたい」と宮平。
「ええと……自分を信じて、周りも信じて “いつも通り” やれば大丈夫かなと思っています」とヴィヴィ。
「五輪の魔物は自分の心の中に潜んでいるものだと思うので、自滅だけはしないように頑張りたいです」と本郷。
それぞれの抱負を語って、日本選手に対する会見はお開きとなった。
大会15日目。
いよいよフィギュアスケート競技のトリを務める、女子シングルの個人戦が始まった。
2月20日(月)19:00から開始したSP。
第5グループの1番滑走のヴィヴィは、21:00に会場入りした。
なにせ、ヴィヴィの滑走開始時間は予定通りだと22:30からなのだ。
柿田トレーナーとゆっくり時間をかけてアップをし、常の大会と変わらず戦える心と身体を作り上げていく。
そして、とうとう第5グループの6分間練習が始まった。
SPの1本目に飛ぶアクセルの踏切のみを何度も確認し、最後に1本だけ本番を想定して飛んでみる。
“いつも通り” の安定した着氷に、会場がわっとどよめき立つ。
何もかも予定通りに事が進んでいる。
順調すぎて逆に怖いくらいだが、それだけコーチをはじめとするチームの皆が、ヴィヴィがそういられるように心を砕いてくれた結果なのだろう。
なので、自分は納得のいく演技をして返すだけだ。
6分間練習も残り1分となり、ヴィヴィはリンクサイドのジュリアンの元へと戻る。
そこにはクリスはいない。
双子の兄は追試の為に、まだ日本に滞在している。
が、きっと今頃、父と一緒にテレビに噛り付き、応援してくれていることだろう。
そして心強いことに、この広大な会場のどこかに、本日現地入りしたばかりの匠海が応援に駆け付けてくれていた。
だから、
怖い事なんて無い。
不安に思う事なんて無い。
みんなへの感謝の想いを胸に携えて、
しかし、
気持ちは松濤のリンクで滑っているのと同じ様に。
6分間練習を終え、最終グループの5名の選手達が、バックヤードへと戻って行く。