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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「はぁ~~……」
大きく息を吐き出す娘に、ジュリアンが苦笑する。
「なあに? 緊張してるの?」
「まさかぁ。誰の娘だと思ってるんですか?」
本番直前にそんな軽口を叩く余裕のあるヴィヴィに、
ジュリアンは「それはそれは頼もしいですこと」と細く高い鼻を抓んだ。
『The next skater is Victoria Shinomiya, from JAPAN. ――Der nächste Eisläufer ist Victoria Shinomiya, von JAPAN』
自分の名前がコールされ、最後に乾きがちの咽喉を水で潤す。
「さあ、SMILE! ヴィヴィ」
母の専売特許に、娘は白い歯を見せてにかっと笑い。
「行ってきます!」
フェンスを両手でポンと叩いて、リンクへと飛び出して行った。
さあ、時間は1分間もある。
確認することをきちんとして。
深呼吸をして息を整えて。
そして、
(スポンサーの方々、周りのみんな、ファンの方々、マム、ダッド、クリス、お兄ちゃん。ヴィヴィをここまで来させてくれて、本当にありがとう)
そう、心の中で感謝して。
最後に白い衣装の上から、首に下げたラッキーチャームの手触りを確かめる。
これまでの試合で纏っていた空色の衣装とは別に、五輪とその後の世界選手権へと用意した1着。
ワンショルダーのそれは、白地に色とりどりの水玉の装飾が染められ、縫い付けられたもの。
軽やかなスカート部分にも、透明で7色に輝く大小のスパンコールが付けられていた。
極彩色の音色に溢れる『girls』を具現化したそれに、更に勇気を貰い、
ヴィヴィはSPのスタート位置に立ち、リラックスした微笑みでポーズを取った。
3回転アクセルをクリーンに降り、その後も手堅く演技を纏めた結果。
女子シングルSPの結果は、次の通りとなった。
1位 篠宮 ヴィクトリア(日本) 78.51
2位 ヴィヴィアン・リー(アメリカ) 74.93
3位 マリア・ソココワ(ロシア) 74.13
4位 ユリア・リプニツカ(ロシア) 68.64
5位 ガブリエル・ドールマン(カナダ)65.24