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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「ええと……」
何故か言葉に詰まったジュリアンが、ちらりと隣に座る父を見る。
「Ambit GroupのCEO、Ashok Wadhwa氏だよ。昨年までインドにいらしたから、ヴィヴィは知らないと思うけれど?」
父の挙げた名前には聞き覚えが無く、取り敢えずほっと胸を撫で下ろす。
「そう……。大事無いといいね?」
インドの会社ということは、匠海の留学中に英国で知り合ったのだろうと、ヴィヴィは納得した。
(でも、お兄ちゃんがお世話になってる方……心配だな……)
「そうだね。さあ、ヴィヴィ。もう19:00だ。食事に行くなら、暖かい恰好をしないとね?」
父の催促の声に、はたと自分の格好を見る。
薄手のニットにオールインワン。
これで夜の街に出たら、確実に凍死する。
目の前のジュリアンは準備万端、ちゃんとコートを手にしていた。
「あ……。ヴィヴィ、コート取って来る。待ってて!」
ぴょんとソファーから立ち上がったヴィヴィは、ダッシュで広い応接室から出て行こうとする。
「そんなに急いだら、転ぶよ?」
後ろから追い駆けてきた、父のそんなからかいに、
「むうっ もうヴィヴィ、そんな “お子ちゃま” じゃないってば」
べっと舌を出して見せたヴィヴィは、急いで3階の部屋へと戻る。
スマホだけ白ダウンのポケットに入れ、部屋を出るが、
1基しかないエレベーターは1階で止まったまま、中々上がって来なさそうだった。
ならばと隣の階段を、軽い足取りで降りていくヴィヴィ。
男子の部屋が連なる2階を通り過ぎ、1階へと降りれば視線の先、
煌々と明かりの灯った玄関ロビーの外側に、暗闇に浮かび上がるグレコリーの姿を捉えた。
「え? あ、もうみんな、玄関に出て?」
この氷点下の中、待たせてしまっては悪いと、ヴィヴィは走って玄関ロビーを突っ切り、ガラスのドアを外へ向けて押し出る。
しかし、そこにいたのは父だけで。
しかもその手にはスマホが握られており、ロビーの光に照らし出された横顔は真剣なものだった。
(おっとっと、電話中か。じゃあクリス達は、まだ応接室かな?)