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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
踵を返して玄関のガラスドアを掴んだ時、
「それで? トウコさんは? トウコさんは、大丈夫なのかっ!?」
あまり耳にする事のない父の厳しい声に、ヴィヴィはびくりと震え、ドアを掴む手が止まる。
ちらりと振り返った先、父の険しい顔が少しずつ解れていき、
「……ああ、……うん。そうか……。良かった。本当に、良かった……っ」
何だか良く解らないが、ヴィヴィはこのまま立ち聞きするのはいけない事だと気付き、ドアを引いた。
「当り前だろう? 初孫だぞ? 心配するに決まってるじゃないか! ……ジュリアンだって、平静を装っているけれど、どんなに気を揉んでいるかっ」
続いた父の言葉に、ヴィヴィはまた動きを止めた。
何だか、その会話の内容が、自分にも関係していることのような気がして。
「………………?」
(マムが、何……? 初孫……?)
もはやドアノブを握っていた両手は離れ、身体ごと父の方へと向き直る。
スマホを耳と肩で挟んだ父が、左腕の腕時計を右手で触れて覗き込む。
「そっちは、まだ3時か……。はぁ……、匠海も少しは休みなさい。……ああ、ヴィヴィなら、大丈夫だ」
父が発した2人分の名前に、
「え……?」
ヴィヴィは咄嗟に呟いてしまった。
小さなその声は、暗闇の広がるそこに妙に響いた。
「……――っ!? ヴィヴィ……っ」
ばっと音を立てて振り返った父の表情が、みるみる驚愕のそれに変化していき、
「ダッド……?」
(何で、そんなに驚いて……?)
不可解に思いながらもヴィヴィは右手を上げ、4m程先に立つ父のスマホを小さく指差す。
「電話、お兄ちゃんなの?」
冷気と乾燥した空気に、唇が渇く気がした。
「え? あ、ああ……。い、いや、違うよ……」
しどろもどろなグレコリーの返事に、ヴィヴィの眉間に微かな皺が寄る。
何故 誤魔化すのか分からないが、
電話の相手はたぶん匠海。
兄はインド人社長の見舞いの為、急きょ帰国した筈。