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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 ヴィヴィの小さな頭がこてと倒れる。

 なんだか胸騒ぎがして、気持ち悪い。

「……初孫……って、なに……?」

 その根源であると思われる、先ほど父が口にした単語を反復してみる。

「―――っ 聞いてたのかい?」

 責める様な口調の父に、ヴィヴィはバツが悪くなり、薄い唇を引き結ぶ。

「……ごめん、なさい……」

「い、いや……、まいったな」

 素直に謝った娘を前に、いつも落ち着いたグレコリーは、頭の後ろを掻いていた。

「……ダッド? ねえ、お兄ちゃん、なんでしょう……?」

「……ああ」 

 ヴィヴィの再度の確認に、父は今度は認めた。

 じゃあ、

「ねえ……“トウコさん” って、誰……?」

「………………」

「ねえ。 “初孫” って……?」

「………………」

 答えを返してくれない父に対し、静かに問いを繰り返す自分の声は、何だか間抜けにも思える。

 そしてグレコリーはそれらの返事を娘にではなく、スマホの向こうの相手に対してした。

「………………、匠海……、聞こえてるだろう? ヴィヴィが知ってしまった。説明は私がするから、お前はトウコさんと赤ちゃんの傍にいてあげなさい、いいね?」

「………………」

 スマホを切ってこちらを振り向いた父の表情は、今迄見た中で一番当惑したものだった。

 4mの間合いを、ゆっくりとした足取りで詰めてくる父。

 そして持ち上げられた両手は、娘の頬をすっぽりと包み込む。

 掌は暖かいのに、その指先はとても冷たくて。

「ごめん、ごめんな、ヴィヴィ。匠海に口止めされていたんだ。お前の……お前達の五輪前に、余計な事で気を使わせたくないからって」

「……え……?」

 大きな掌の中、ヴィヴィの顔がきょとんとした表情を浮かべる。

「全然 “余計な事” なんかじゃ、ないのにな……。新しい家族が増えるっていう、とても素敵な事なのに」

 両の親指が、娘の瞳の下を慈しむ様に辿っていた。

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