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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 そして、腰を屈めて覗き込んできた父は、きちんと瞳を合わせて唇を開いた。

「ヴィヴィ。匠海の恋人が妊娠した。今、3ヶ月ちょっとだ。昨日、瞳子さん――恋人の名前なんだか、腹痛を訴えて病院に担ぎ込まれたらしくて。だから匠海は急遽――」

「何、言ってるの?」

 父の言葉を遮ったヴィヴィの声は、笑いを含んだものだった。

「え……?」

 大きな掌に包まれた可愛らしい顔が、ぷっと吹き出す。

「ダッド~、もう、冗談キツイよ! お兄ちゃんに恋人? 妊娠? ホント、何言って!」

 父の両手首を掴んだヴィヴィは、明るい声で笑い飛ばす。

「ヴィヴィ? お前……?」

 不可解そうに覗き込んでくる父とは別に、

「あれ……? もう、2人とも玄関にいたの……?」

 そう声を掛けてきたのは、ガラス戸を押し開いたクリス。

「クリス……」

 息子を呼ぶ父の戸惑いの声。

「ねえ、クリス! ダッドがすっごい冗談言うの~~っ」

 ケタケタ笑うヴィヴィは、父の手から離れ、クリスの傍に寄る。

「え……? ヴィヴィ……?」

 不思議そうなクリスが、父と妹の顔を見比べていた。

「うふふ。お兄ちゃんにね、恋人がいるんだって。でね、その人が妊娠してて、もう3ヶ月だなんて言うの! もう、真顔で冗談言うなんて、酷いよね~?」

 白ダウンのお腹を押さえて、さも可笑しそうに笑うヴィヴィ。

「ダッド……? 一体……」

 そう問うクリスの戸惑った声音。

「……いや。ごめん、ヴィヴィ。冗談だよ。うん、全部冗談だ」

 困惑から一気に微笑みに表情を変えた父が、そうネタ証しをしながら大げさに両手を上げてみせる。

「もうっ! エイプリルフールには、まだ早いよ~?」

 やはり自分の読みが当たっていたと、ヴィヴィは父の腕をぺちぺち叩く。

「そうだな、2ヶ月もサバを読んでしまった。ほら、ご飯に行こう! ヴィヴィの好きなもの、何でも頼んでもいいぞ」

「うんっ じゃあヴィヴィ、和食がいいな」

 相好を崩した父に、ヴィヴィはそんな無謀な事を言い募る。

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