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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 ここローゼンハイムには、日本料理店が無い。

 しかし父もヴィヴィを謀ろうとしたのだから、少しくらい意地悪してもいいだろう。

「クリス、悪い。ジュリアンを呼んで来てくれるか?」

「え……、あ、うん」 

 父に促され、クリスは素直にロビーの中へと戻って行く。

「和食かあ~~。確かここには無かったんじゃないかな? ヴィヴィ、和食以外では何が食べたい?」

「え~~、じゃあ、生ガキ!」

 これも我が儘だ。

 溺愛する愛娘の無茶な要求に振り回される “父のでれっでれな姿” が、何だか今は無性に見たくて。

「あ~~、生ものはジュリアンが「駄目」って怒るよ?」

 試合期間中は、食あたりの可能性の高い生ものは厳禁。

 そんな常識を無邪気に覆してくる娘に対し、父の浮かべた表情は、ヴィヴィの求めていたそれでは無くて。

 濃茶の凛々しい眉が、心底困ったとでもいう風に、ハの字に下がっていて。

 灰色の切れ長の瞳は、戸惑ったように細動していて。

「………………」

 先程まで弾ける笑顔を浮かべていたヴィヴィの表情が、そのままの状態で凍りつく。



『それで? トウコさんは? トウコさんは、大丈夫なのかっ!?』


『当り前だろう? 初孫だぞ? 心配するに決まってるじゃないか! ジュリアンだって、平静を装ってるけれど、どんなに気を揉んでるかっ』


『………………、匠海……、聞こえてるだろう? ヴィヴィが知ってしまった。説明は私がするから、お前はトウコさんと赤ちゃんの傍にいてあげなさい、いいね?』



 頭の中で、先程の父の声が木霊する。

 笑いのまま固まっていた表情が徐々に緩む。


 トウコ……って、誰……?

 トウコ?

 トーコ……?

 ヴィヴィ、知らない。

 ヴィヴィ、

 そんな、女の名前、

 知らない。


 灰色の大きな瞳が、戸惑ったように左右に揺れる。


 孫って、何? 

 孫……?

 初孫って、ダッド、の……?

 赤ちゃんって、何?

 3ヶ月……?

 妊娠……?



 っていうか、

 恋人って――?


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