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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「ヴィヴィ? おい、ヴィヴィ?」
父が自分を呼ぶ声。
肩を掴んでくる大きな手。
そのどちらも、ヴィヴィには届いていなかった。
「どしたの~、グレコリー、おっきな声出して?」
能天気な声に、父と娘がさっと声のした方を振り返る。
「ジュリアン……」
「……マ、ム……?」
きょとんとした表情の母が「なあに?」と2人を見比べる。
「……トーコ……て、だれ?」
「え?」
ヴィヴィは父の手を振り解くと、ゆっくりとジュリアンの元へと歩いて行く。
「瞳子って、だあれ?」
目の前に立ち、自分を追及してくる娘の言葉に、ジュリアンはさっと視線を夫へと向ける。
「……――っ グレコリー?」
「……すまない……」
背後で父の謝罪の言葉が聞こえた。
「ねえっ マム! 誰なの!? 瞳子って、誰なのっ!!」
そう叫んで母の胸に縋ったヴィヴィは、もう訳が解っていなかった。
何度も何度も、大声で同じ質問を繰り返す。
その騒ぎに気付いたのか、コンドミニアムのどこからか、がらりとサッシを開ける音がして、
「ヴィヴィっ!!」
厳しく一喝するその声に、ヴィヴィはびくりと震え上がった。
きょとんとして瞬けば、目の前にあったのは、こちらを覗き込んでくるクリスの顔。
「………………」
至近距離で見つめてくるクリスの表情が、今まで見たことのない怒りを押し殺したようなもので。
「ヴィヴィ。部屋に戻ろう?」
そう静かな声で諭してくる双子の兄。
「……ク……リス……」
「ね? 部屋に、戻ろう?」
「………………」
自分そっくりのその灰色の双眸を見つめていると、
何故だか頭の中が、靄がかかった様に真っ白になって。
こくり。
気付けば、小さく頷いていた。
「うん。良い子だね」
頭を撫でられて、
手を引かれて。
連れて来られたそこに、ヴィヴィは不思議そうな声を上げる。
「……クリス……? ここ……?」
「うん。僕の部屋」
2階フロアの一番隅。
そこは一度も足を踏み入れた事のない、男子専用のフロア。
3階の女子専用フロアと、作りは全く同じだったが。