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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「どうして……?」
その質問に対して返されたのは、
「今日、僕、ここに泊まるから」
そう、よく分からないものだった。
「…………うん」
妹の白ダウンを、甲斐甲斐しく脱がせたクリスは、
その手を引いて、ベッドの上に腰掛けさせる。
「少しゆっくりして、ご飯食べて、今日は一緒に寝ようか」
「……いっしょに……?」
不思議そうに、上目使いに見上げるヴィヴィ。
クリスが細い両肩を掌で包み、視線の高さを合わせてくる。
「うん。一緒に」
「……睡眠導入剤?」
東大受験の時に気付いたその事実。
「そうだよ。効果てきめんのね」
そう続けてクリスが微笑む。
氷上以外で滅多に微笑むことの無い、双子の兄が。
「………………」
固まった様にじいと自分を見つめている妹を、
「ヴィヴィ、ほら、横になろう」
クリスはその肩を抱いてベッドに横たわらせる。
セミダブルのそこで並んで寝転んで、
掛けられた羽毛布団の上から、ぽんぽんとあやす様に撫でられると、本当に――、
「……眠、い……」
何故か睡魔が襲ってきた。
暖かな空間が、
柔らかな感触が、
クリスの落ち着いた声音が、
ヴィヴィを強引に、眠りへといざなっていく。
「少し、ねよっか」
「……ん……」
「寒くない?」
気遣わしげなその問いに、ヴィヴィは目蓋を閉じたまま甘えた。
「ん……。一緒に、いて……?」
「うん。ここにいるよ」
クリスのその暖かな返事にほっとして、ヴィヴィの意識は闇の中へと堕ちて行った。
胸下までの深さの、暖かな海水。
緩やかな波が、立っているだけの自分を、押しては引いてゆらゆらさせる。
ある程度の透明度を誇るそれの温度は心地良いけれど、
それよりも、
ヴィヴィの焦燥感を煽る、暖かなものが、
『ヴィクトリア?』
『……~~っ』
波音に乗って届く、楽しげに自分を呼ぶ声にも、
ヴィヴィは唇を引き結んで俯いたまま。