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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 自分の胸の前で浮かぶ大きな浮き輪。

 それを握ったヴィヴィは、

『おにいちゃんの、ばかぁ~っ』

 くしゃりと顔を歪め、目の前の兄を睨んだ。

『ごめんって。ああ、可愛いな』

 まったく懲りた様子のない匠海に、

『~~~っ!? もう……っ』

 ヴィヴィは臍を曲げ、くるりと背を向けて反対方向へと泳ぎ出す。

『ごめん。ヴィクトリアの水着姿、本当に可愛かったから』

『………………』

(ふんだ。そんな甘い言葉には、もう騙されません~~)

 ヴィヴィは無視を決め込んで、バタ足で泳いでいたのだが、何故か兄から離れられない。

 それもその筈、浮き輪を縁取ったロープの先は、匠海によって握られていたのだから。

『ヴィクトリア、好きだよ』

 背後から掛けられた兄の愛の言葉に、ヴィヴィは訝しがりながらちらりと振り向く。

『ホントにぃ~~?』

 疑わしげなヴィヴィの唇は、拗ねてツンと尖っていて。

 その愛らしい様子に、また匠海が『可愛い』と瞳を細める。

『本当。ヴィクトリアがお婆ちゃんになっても、毎日「愛してる」って言うから、機嫌直して?』

 夏の強い日差しが、匠海の白い歯を輝かせて。

 切れ長の瞳が、まるで眩しいものを見る様に、優しく細められていて。

 そんな爽やかな笑顔で、さらりと凄いこと言うなんて、反則だ。

 うん、反則なの。

『~~~っ も、もう、しょうがないなぁ』

 臍を曲げていたヴィヴィのぶっちょう面が、途端にふにゃりと弛緩する。

『はは、笑った』

 素直過ぎる妹に、匠海は心底幸せそうに破顔する。

 そんな恋人の表情を、独り占めに出来る幸せ。

 それを胸に、ヴィヴィは満面の笑顔で唇を開いた。



『うふふ。お兄ちゃん、だ~~いすきっ♡』








 目蓋を開けると、そこは薄暗い場所だった。

 瞳を細めないと居られないほど眩しかった、先程までの場所との差に、ヴィヴィは億劫そうにぱちぱちと瞬く。

「………………」

 横になったまま、ぐるりと頭だけを巡らす。

 どうやら自分は夢を見ていたらしい。

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