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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 胃酸にやられた咽喉が、焼かれた様に痛くて。

 気管に入った水のせいで、鼻が痛くて涙が滲む。

「え?」

「さとこ、ちゃ……、りかちゃ、ん……に」

 お願い、だから、

 お願いだから2人には知られないで。
 
 自分のせいで、

 自分のこの状態で彼女達を動揺させて、

 4年に1度の掛け替えのない試合を、

 血の滲む様な思いで勝ち取った五輪での試合を、台無しにして欲しくない。
 
 そんな事をしてしまったら、

 もう、自分は彼女達に合わす顔がない。

「バカ! 人の心配より自分の心配しなさいよ!!」

「ヴィヴィ、大丈夫。マスコミに悟られない様に、内密に動いてるから」

「そうだよ、女子とはフロア違うしね……」

 交互に囁かれる声が、何故か徐々に小さくなっていき、


「……クリスの部屋に来させたのは、正解だったわ……」


 最後に鼓膜を震わせたのは、

 そんな母の辛そうな声だった。







 時折、薄らと意識が戻り、

 その度に嘔吐していた気がする。

 ちくりとした注射の痛み。

 手を握ってくれる暖かな掌。
 
 そういった感触は異常なほど鮮明なのに、

 頭の中には紗がかかっていて、

 躰はまるで鉛の様に、重くベッドに沈んでいた。

 そして、ようやくはっきりとした意識。

「……なん、じ……?」

 開口一番、そう発したヴィヴィ。

 傍に付き添っていてくれたらしいクリスが、心底ほっとした顔で覗き込んできた。

「ヴィヴィ……、良かった……っ」

「何時……?」

 執拗に時間を確認する妹に、クリスは抑えめの声音で時刻を告げる。

「……9:40……」

「えっ!? え……っ な、んで……っ」

 時間を認識した突端、ヴィヴィはベッドから跳ね起きた。

 頭がくらりとしたが、そんなことは気にしていられない。

 今日――2月22日は、女子FPの日で。

 ヴィヴィの第4グループの公式練習は、10:00~12:00の筈だ。

 ここからミュンヘンまで、どうやっても50分は掛かる。

 完全なる遅刻だ。

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