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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「……ヴィヴィ、まさか」
自分の右腕を掴んだクリスに、ヴィヴィは懇願する。
「まだ、間に合う……っ クリス、車の準備して貰って!」
そう言ってベッドから降りようとしたヴィヴィを、何かがくいと引っ掛かって止める。
不思議に思い振り返ると、剥き出しの左腕に点滴が刺されていた。
そのチューブの先はヴィヴィが強引に引っ張ったことにより、ベッドの上に点滴ホルダーごと倒れていた。
「ヴィヴィ、無茶だよ! フリーはもう諦めてっ」
「いやっ 嫌っ! 絶対、絶対出る――っ!!」
双子がベッドの上で押し問答をしていると、医師らしき人物入って来た。
医師は点滴を元の位置に戻すと、双子の方に回り込みクリスと入れ替わる。
「ヴィヴィちゃん、落ち着いて。君は昨夜 “また” 急性胃炎で倒れたんだよ? 今は薬が効いて、胃の痙攣が収まっているだけで、いつ吐き気や胃痛がぶり返すか――」
「薬っ!? くすり……、ド、ドーピング……っ だ、大丈夫なんですか?」
医師の発した単語に引っ掛かりを覚えたヴィヴィは、話も聞かずにすぐに問いただす。
「え? あ、ああ……。ドーピング検査には問題ないよ。前もって君のコーチから、薬の成分まで指定されて、日本から用意してきたからね」
「え……?」
眼鏡を掛けた人の良さそうな医師の発した言葉に、ヴィヴィははっとする。
「さすが母親だね。万が一の時の為に、前回使った薬剤を病院に問い合わせて。それを毎試合ごとに、すぐに手配がつくようにしてきたらしい」
「………………」
(マム……、そんなこと、一言も……)
3年前、ヴィヴィは英国での世界選手権後、急性胃炎を発症して空港で倒れた。
担ぎ込まれた病院で使用された、ドーピングにも引っ掛からず、娘の身体にも合った薬剤。
母が遠征の度に、それらが各地で手配出来るよう、取り計らってくれていたとは。
初めて知らされた事実に驚いていると、騒ぎを聞きつけたらしいジュリアンや牧野マネージャーが駆け込んで来た。
「ヴィヴィ……」
ベッドの上に座り込んだ娘に、母はすぐに駆け寄ってくる。